Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

『死亡直前と看取りのエビデンス』

今日は久し振りの本の紹介です。全く新刊ではないです。
過去にTwitterでも紹介したように記憶しています。
既に読まれたという方も多いかもしれませんが、まだ
の方は是非お勧めしたい本になります。

死亡直前と看取りのエビデンス

死亡直前と看取りのエビデンス

内容は医療者向けですが看取りを考えている御家族の
方も、知識を持つことで色々な備えが出来るのではないか
と思います。今の日本は、亡くなる方の殆どが病院であり、
亡くなる過程についての経験・知識が本当に少ないと
感じます。これだけ情報がたくさんある時代でも、
看取りに関しては直接関連のない方にはあまり興味を
持たれないのも理由のひとつかもしれません。

森田先生の本はいつもとても興味深いですが、この本も
例外ではありません。医療者であれば、下顎呼吸や
死前喘鳴が出現すれば患者さんの死が間近であることは
分かります。しかし、たとえば下顎呼吸が出現する頻度、
また下顎呼吸から患者さんが亡くなるまでの平均時間を
知っている医療者はどれだけいるでしょうか。
この本によると、下顎呼吸が始まってから亡くなるまで
の平均時間は2.5時間であるそうです。しかし5%は24時間
以上、この状態が続きます
。こうした正確な知識を持つ
ことで、多くのご家族の疑問に答えることが出来ると
思います。

しかし一方で、バイタルサインはあまりアテにならない
ことも記されています。もちろん、亡くなる直前になると
血圧が下がり、脈拍が上がり、SpO2は低下して測定が
難しくなります。しかし亡くなる前日までは正常という
方も多く、3日以内の死を予測する判断材料としては
あまり頼りにならないことが示されています(感度は
35%以下)。

単に自然な死の過程を学ぶだけでなく、「輸液」が
QOLや余命にどう影響するのか、「鎮静」は余命に
影響するのかといったことも解説されていますが、
個人的に興味を持ったのは、終末期の蘇生の成功
に関するエビデンスです。まず、病院内で心肺停止
になった患者さんの場合、蘇生し退院出来た方は
6.2%。がんが局在している方では9.5%、遠隔転移
している患者さんでは5.6%に下がります。これを
高いといるか低いとみるかはそれぞれだと思いますが、
徐々に症状が悪化して心肺停止が予測出来た患者さん
に限ると蘇生率は171例中0例であったということです

統計的に、信頼区間を計算すると0~2%ということ
ですので、やはり医療者のみならず家族が正しい知識
を持っていないといたずらに患者さんに苦痛を経験
させてしまうことになります。

ということで、医療者にとっては「何となく」知って
いることに科学的な裏付けを追加出来る本です。ご家族
には、是非詳しく知りたい!という方以外はちょっと
難しく、解説が必要かもしれません。本の中でも紹介
がありますが、看取りのパンフレットのようなもの
の方が分かりやすいかもしれないですね。

http://gankanwa.umin.jp/pdf/mitori02.pdf