Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

2018-01-01から1年間の記事一覧

医師の信念と患者の気持ち

とても興味深い対談が連載中です。www.kango-roo.com少し前に御紹介した幡野広志さん(2017年に多発性骨髄腫を 発症。余命宣告を受けているフリーカメラマン)と、市立 井田病院の西先生の対談です。いきなり最初から幡野さんの するどい直球で始まります。 …

新しい『鎮静の手引き』について

今日は2018年9月に出た緩和ケア学会編の『がん患者の 治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き』、 略して『鎮静の手引き』について。これまでは緩和ケア学会 から、『苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン』 が2010年に刊行されており、…

『自分らしく』とその限界

今日は緩和ケアにおいて大切な、患者さんの 「その人らしさ」を尊重するということについて 考えてみたいと思います。「考えてみれば、ケアを提供する私達がそもそも 『自分らしさ』って何か、考えたことがない。」どこで読んだか忘れましたが、こんなことを…

「毒」になる「善意」

9月終わりにPHP onlineに載っていた、幡野広志さん の記事。一人でも多くの人に読んで、考えてもらいたい と思います。shuchi.php.co.jp幡野広志さんは、多発性骨髄腫という病気で30代で 余命3か月の宣告を受けながら、情報を発信し続けて いる、フリーのカ…

在宅看取りと事故物件

先日Twitterでお世話になっている方からお聞きし、 考えさせられたことがありましたので、皆さんにも 共有したいと思い記事にさせて頂きます。貸家で殺人事件や自殺があると、そこは事故物件 として扱われ、当然ながら入居希望者が減り、 家賃をかなり下げる…

「鎮静」という手段を知って下さい

5年余り訪問診療を行って来て、先日初めて在宅でドルミカム を使った持続的な深い鎮静を行いました。対象は若い患者さん で、身の置き所のなさとせん妄があり、家族も眠れず心を 傷めている状況でした。「眠っても良いから楽にして欲しい」 と御本人もおっし…

「美しい心」と言ってくれた

Twitterでお世話になっている、海月要さんの書いた小説です。 表題作の『「美しい心」と言ってくれた~地下にある死者の施設』 のほか、4作品が納められた短編集になっています。海月さんは 老人施設の看護師をされていますが、その日常の体験をもとに 描か…

医療者が死にゆく時

長年大病院で勤務したある看護師さんが退職後 に末期がんを告げられ、いよいよ病状が悪く なった時、自分とはふた回りくらい違う歳の 看護師の前で涙をみせられたそうです。「自分が思い描いていた最期とは違った、 こんなに辛いものだとは思わなかった」こ…

胃瘻を中止にすることは出来ない!?

ある胃瘻の患者さんの御家族から、 「胃瘻にしていると老衰は出来ないのですか?」 と尋ねられたことがあります。老衰とはこの場合、 老衰死=平穏死のことを指しているのでしょう。老衰死の場合、人は物を摂らなくなりますが、 多くの死をみているとこれは…

フェントスのeラーニングを終えて

フェントステープは医療用麻薬、フェンタニルのパッチ 製剤です。フェンタニルパッチにはほかにデュロテップ MTパッチ(ワンデュロ)がありますが、個人的に使い 慣れているフェントスでeラーニングを受けました。eラーニングのeはelectronicの頭文字です…

心肺停止で救急車を呼び警察沙汰になった話

訪問診療で看取りを前提にしている場合、もし患者さんが 呼吸をしていないと分かった場合は訪問医(私)にまず 連絡をするように、と伝えています。搬送になると運ばれた先 の病院では診断書が書けないという理由で、警察が呼ばれる のが普通です。呼ばれた…

自費診療は悪か?

皆さんは自費診療のクリニックを受診されたことは ありますか?我が国は皆保険という制度をとっており、 保険診療によって自己負担額は1~3割となっており、 残りは公費で賄われています。医療はサービス業と 言われることがあります。確かにサービス業的な…

地上の星

中島みゆきさんの地上の星という歌があります。www.youtube.comNHK総合テレビ「プロジェクトX 挑戦者たち」の 主題歌ということで、wikipediaによるとみゆきさん のシングルの中でも1994年発売の「空と君とのあいだに /ファイト」に次ぐ2番目の売れ行きであ…

老いと「受容」

私は患者さんが病気や死を受け入れるか、それ自体はどちら でも良いと考えています。投げやりな意味ではなく、それは 患者さんの価値観や生き方によるからです。過去のエントリーでも、 kotaro-kanwa.hateblo.jpkotaro-kanwa.hateblo.jpこの辺りで書かせて頂…

分子栄養学、その後

昨年11月のブログで、私の分子栄養学、 『オーソモレキュラー』などと呼ばれる分野について 思うところを書かせて頂きました。 何、それ?という方はお手数ですがこの記事をお読みください。kotaro-kanwa.hateblo.jp新しい栄養学に対して期待をすると共に、 …

男の介護と虐待

過去にこちらのブログで、『迫りくる「息子介護」の時代』 という本の紹介をさせて頂いたことがあります。迫りくる「息子介護」の時代 28人の現場から (光文社新書)作者: 平山亮,解説上野千鶴子出版社/メーカー: 光文社発売日: 2014/02/18メディア: 新書この…

看取りを支える

長尾和宏先生のブログ記事を紹介させて頂きます。blog.drnagao.comとても大切な内容を取り上げて下さったと思います。 介護施設における看取りの現場で、「体温が上がりました」 「血圧が下がりました」、「酸素の数字が下がりました」と 時間を問わず連絡し…

お医者様と患者様

こんな記事を読んでの感想です。http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/column/kumagai/201807/556919.html登録していないと読めない記事かもしれません。 主治医を「お医者様」と呼び、薬を減らして欲しいと思いながら 言い出せない80代の男性の患…

「異常者」と殺意を生む職場

大口病院の事件は衝撃的な内容でした。 「信じられない」「許せない」という多くの声の中で、 一部の医療者・介護者はTwitter等で高齢者医療・延命治療 のあり方、医療・介護者の置かれている過酷な環境などを 発信していました。しかし、これに対しては、「…

介護における「ボディタッチ」の是非

昨日Twitterで、「介護におけるボディタッチは風俗法に 抵触するのではないか」という意見をお聞きしました。 個人的には結構ショックで、「ついにこういう時代が 来たか…」と思いました。この指摘は、看取り前の がん末期の患者さんに対して、看護師が手を…

命の重み

私がレジデントの頃の話です。 病院かかりつけの患者さんが窒息で救急救命センターに 搬送されました。一命を取りとめましたが食事も会話も 出来ず、胃瘻に。また、もともと透析をするかどうか ギリギリの方でしたが、救命後は透析も必要となりました。 経過…

入院時に受ける急変の説明

病院に入院すると、家族が病状の説明を受けた時に、 「急変時の方針」を決めるよう求められる場合があります。 もちろん、この場で答えたことが今後も変更不可能ということ ではありません。後に変更も可能です。しかし後述のように いざ起こってしまってか…

同居孤独死

Yahooニュースにこんな記事がありました。headlines.yahoo.co.jp家族と同居をしているのに孤立状態で異常死を遂げる ケースがあると記事は述べています。別の記事によると、 このような「同居孤独死」は都内で年間2000件ある そうです。ちなみに一人暮らしの…

自分で決めない文化

日本において本人よりも家族の意思が優先される場面が多々あるのは 確かに課題ではある。しかしそれを本人自身が望んでいる場合という のもまたあり、それが日本人としての特性だろう。 ACPを進めて本人の意思を最優先させる仕組みを整えていくことは重要 だ…

「ヘルプマン!!」とキラキラ系介護

今回は、前回の続きの予定のつもりでしたが、うまく まとまらないので、他の内容にさせて頂くことにしました。ヘルプマン!!作者: くさか里樹出版社/メーカー: 朝日新聞出版発売日: 2015/05/20メディア: コミックこの商品を含むブログ (1件) を見る皆さんは…

『母親に、死んで欲しい』

将来介護をする、受ける人になる可能性は、とても高いと 思います。特に家族に介護する/される人にとって、是非 一度は読み、考えて頂きたい本だと思います。「母親に、死んで欲しい」: 介護殺人・当事者たちの告白作者: NHKスペシャル取材班出版社/メーカー…

「一番苦しいのは本人」ですか?

がんの末期に限ったことではありませんが、介護している家族 に向かって「あなたも大変だと思うけれど、御本人の方が辛いの ですよ」等と声がかかることがあります。これは間違っていると 思います。もちろん、痛みや呼吸苦、嘔気などの身体的な苦痛を 感じ…

「死の受容」に対する疑問(2)

昨日の続きになります。kotaro-kanwa.hateblo.jp昨日のブログでは、西先生のブログ記事、「患者さんは死を 受け入れられるのかどうか」を紹介させて頂きました。 そして我が国のホスピスがキュブラー・ロスの影響を強く 受け、まるで「死の受容」に至ること…

「死の受容」に対する疑問(1)

3月28日、川崎市立井田病院の西先生がこんなブログを書いて おられました。https://www.buzzfeed.com/jp/tomohironishi/shihaukeirerarerunoka?utm_term=.yxG1bjPa#.end58z4Zwww.buzzfeed.comTwitterでも散々絶賛したのですが、私がこの仕事をしながら 長年…

『1000の夜を駆ける: ーわたしは統合失調症』

本日は本の紹介です。統合失調症を発症された著者 『しらたま』さんが、これまでの経験や想いを綴った漫画です。 これは2012年に描かれた作品ですが、AmazonのKindle Unlimitedに 登場したのを発見し読ませて頂きました。1000の夜を駆ける: ーわたしは統…