Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

平穏死は良いが誰にでもベストだと言えるだろうか

Dr.和こと長尾和宏先生が、また鎮静について書いておられました。

blog.drnagao.com

面識はないですが非常に熱心な良い先生だと思います。
文才もおありなので、在宅医療や平穏死について数多くの本
を書かれ、啓蒙活動にも力を入れておられます。
賛同出来る意見も多く、機会があれば私も書かせて頂こうと
思いますが、例えば20日の在宅医療の制度に関するご意見は
本当にその通りだと思いました。

一方で鎮静に関する話題については、私は以前より長尾先生と
は考えが合いません。今回もその想いを新たにしただけでした。
ただ、色々な在宅医がいていい、というのが私のスタンスです。
医師の価値観・人生観と、それぞれの患者さんが合えば良い
のです。ケアマネージャーさん、病院のMSWの方々には、
その「仲人」的な役割をお願いしたいです。

私も医療者としての考えは長尾先生とそう大きくは違わない
のですが、自分の考えを押し付けたくないと思っています。
平穏死も良いですが、「楽であれば命が短くて良いよ」と
いう考えの方ばかりではありません。例えばお若い患者さん
で仕事や育児の真っ最中であった難病や末期がんの方。
胃瘻や高カロリー輸液を行っても長く生きたいと願う気持ち、
私は出来る限り尊重したいと思います。
その結果、最期に苦痛が増すことは当然あるでしょう。
だから私は鎮静という選択肢は必要だと思っています。
そしてもちろん、延命しなくても鎮静を要するケースも
あると私は思っています。

長尾先生は何故かそういった患者さんが担当におられない
ようですが、先日も在宅で肺疾患の増悪で呼吸がとても
苦しくなってしまった患者さんがおられました。ちなみにこの
患者さんの場合、長尾先生のおっしゃるような輸液などの、
いわゆる延命的なことは何もしていません。
在宅酸素も、モルヒネも安定剤も使いましたが次第に悪化、
恐らく鎮静が必要になると思われ、事前にその選択肢を伝え
ましたが「眠りたくない」「病院にも行きたくない」とのこと
でした。もちろん、これも当然の気持ちです。

呼吸苦がピークになると、そこからの鎮静は経験上なかなか
うまくいきません。ドルミカム等の薬を多く使わざるを得ず、
ただでさえギリギリの呼吸状態は薬剤によって更に悪化の方向
に変化しやすいです。ですのでピークの前に鎮静が出来れば
良いのですが、もちろんそうはいきません。

たまたま、私が動ける時に御家族から連絡があり、すぐに訪問し
鎮静を開始しました。鎮静が安定するまで付き添い最大限注意して
薬を使いましたが、開始してすぐにお亡くなりになってしまい
ました。本当にギリギリまで頑張られ、人生を生き切ったのだと
私は思いました。

この患者さんの最期は平穏死とは言えないかもしれません。
医療者サイドの感覚では、頑張らせ過ぎてしまったのではないか
という想いもあります。しかし、患者さんの想いが尊重出来る
ことを、私は大切にしたいという考えでやっています。

在宅では鎮静が圧倒的に少ない、これはもちろん、私もそう思います。