Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

『安楽死に至るまで』

この本は、今私がTwitterでフォローさせて頂いている、
くらんけさんが書かれた本です。
くらんけさんは、スイスで安楽死(正確には介助自殺)
の権利を得ている方で、この本は「スイスで安楽死の
権利を得るための手順」が書かれています。
安楽死反対の方にはとんでもない本ということになります
が、安楽死を切に求めている方にとっては、これだけの
知識をネットや本で集めるのは大変だと思いますので、
とても価値の高い本になると思います。
それだけでなく安楽死そのものの知識・仕組みについても
大切なことが書かれていますので、安楽死の知識を得る
にもとても良い本です。

そして本の中でとても大切で私も非常に共感する部分
は、「心のセーフティネット」としての安楽死、
「豊かに生きるための安楽死」という部分です。

実際、スイスの自殺ほう助団体Dignitasによると、厳格な
審査をパスしほう助可能とされた患者のうち実に約7割が、
一度もほう助の日の予約さえしなかったという調査結果を
発表しています。

とくらんけさんは書いています。実際、くらんけさんも
「安楽死の権利」に助けられ、今生きて情報を発信されて
いるのです。いつでも自分自身の選択を尊重しほう助して
もらえるという確信が、逆に生きる力になることが、
実は結構多いのではないかと私も思っています。これって
素晴らしいことではないですか?

他に反省を込め共感した言葉があります。

日本の医学部では、人の命を救う教育ばかりに重きが置かれ、
尊厳とは何か、人命とは、といったことにはめっぽう弱い
ようです。少なくとも私は、QOLに対する意識や配慮が
とても浅い事が多いように感じています。

そうですね。医療者も「安楽死」以前に、尊厳や価値観、
生き方や死に方に共感する態度がもっと必要ですね。
医師が語る正論も、患者さんには結構きついことがあるの
ではないでしょうか。

そして、くらんけさんはもうひとつ重要な、家族に対する
態度にも触れておられます。

人間、誰しも生まれた瞬間から今この時まで、全く誰にも
支えられることなく生きてきた人はいないはずです。
ですから私は、介助自殺を決めても身内など最低限の周囲
からは尊重こそされずとも理解を得られるよう相互努力を
限界まですることを怠ってはならないと思っています。

自己決定とワガママは違うと。本当にそうですね。周囲の
気持ちにまで配慮するのは難しいと思っていましたが、
精神疾患の方が自殺を選択するのとは異なり、安楽死を選択
する方々はとてもクリアで冷静です。もちろんそうでない
と権利を得ることは出来ないのだと思いますが。
家族も、理解し尊重なんてなかなか出来ないですよね。
想像するだけでつらくなりますので…。

安楽死に反対の方も、是非読んで頂きたい本です。なにも
賛成して下さいとまでは思っていません。しかし、「自分は
反対だけれども」という立場でも、苦しんでいる人々が
実際にいるのですから、その想いは傾聴、尊重しなければ
いけないのではないでしょうか。共感も寄り添うことも放棄
し、何故「安楽死を誰も望まない世界」が実現するので
しょうか。耳を塞ぐことは、善ですか?愛ですか?
私も、まだ「緩和ケアの力で…」と「綺麗ごと」を言って
いたい気持ちもありますが、同時にそれだけではいけない、
逃れることは出来ない問題として、今安楽死について考えて
います。