Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

備えること、備えないこと

今年になり、比較的若く独居のがんの終末期の患者さんを
引き受けることが多くなりました。
昔と比べると、抗がん剤の副作用が軽減し、
ぎりぎりの状態まで抗がん剤治療を行うことが多く、
いよいよ治療が終了し外来通院が出来なくなると残された
お時間が1~2か月、ということも稀ではありません。

訪問を引き受けた私達は、短い期間で御本人が今後どう
過ごしたいのか、病状の変化があった場合入院を希望
するのか等を確認していかなければなりません。
いわゆる「アドバンス・ケア・プランニング」ですが、
患者さんは「まだ考えたくない」という意思表示をされる
ことが結構多いです。
家族がいる場合は、自宅療養もそこまで困難ではない
ですし、なにより決められない御本人の想いを代弁し、
各種サービスの契約やホスピス見学もスムーズに行われ
ます。

しかし、お一人の方は決断を先延ばしにしがちで、
結果として対応が後手にまわり防げたであろうつらい想い
を経験する可能性が高くなってしまいます。

介護用ベッドなどの福祉用具やヘルパー・訪問看護など、
こちらはいかに素早く体制を整えるかを考えがちですが
だいたい「まだ大丈夫です」という返事が返って来ます。
訪問診療が始まっても「通院したい、出来る」と
おっしゃることも多いです。
自ら「終活」を口にされる方もいらっしゃいますが、
それも今ではなく、「いつか」です。
結果、身辺整理は殆ど終わらないことが多いです。

ただ、それは仕方ないことでもあります。将来に備える
ことは、支える家族がいなければ、仮にいらっしゃっても
頼ることが出来なければ、患者さんは一人で
死と向き合わなければいけない
のです。
それは誰にでも出来ることではありませんし、
心身が弱くなっている時には尚更です。

私達に出来ることは何か。
これはマニュアルもエビデンスもあまり役立たない世界
です。患者さんの性格を見極め、いかに傷付けずに、
希望を奪わずに変化に備えることが出来るか。
考えていく必要があります。

kotaro-kanwa.hateblo.jp

こちらの記事にも書きましたが独居の方が自宅で最期を迎える
ためには、御本人の意思、そして意思表示が必要です。
そうしないと周囲に迷いが生じることが多いからです。

ただ、最近「何も決めず行き当たりばったり」が絶対に悪い
とも言えない
のかな、と思っています。周囲が無理に話を
進めることが必ずしも正解とは言えないのではないかと。
確かに苦痛の少ない最期が最高のゴールであれば明らかに
不利ですし、周囲は間違いなく大変なのですが…。