Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

「緩和ケア」の名称をもう一度考える

Twitterで話題になったので、もう一度「緩和ケア」という
言葉について思っていることをまとめてみたいと思います。

何度もお話している通り、本来「緩和ケア」には「終末期」
という意味は全くありません。患者さんの困りごとを助ける、
様々な医療やケアの総称です。個人的には大好きな言葉です。
しかし、実質がんの終末期の患者さんしか利用出来ない
病棟の名称が「緩和ケア病棟」であったり、理解のない
医療者が、これ以上治療を続けることが出来なくなった
患者さんに、「もう、あとは緩和ケアしかないですね」と
いった表現をすることから、緩和ケア=終末期という
イメージがすっかり出来上がってしましました。

もちろん、がん治療を行うドクターからすれば「もう治療
がない」というよりは「緩和ケアがある」と前向きな表現を
されたのかもしれませんが、緩和ケアの意味を誤解すると
いう意味では止めて頂きたい表現です。

そういったイメージから、緩和ケアの理解はかなり妨げ
られてしまい、結果として本来得られる助けが患者さんに
届かないという問題がずっと続いています。

もちろん、緩和ケアに携わる医療者はこの誤解を正そうと
ずっと情報を発信して来ました。今のところ十分効果が
あるとは言えないのでこのような現状なのですが、
最近はブログ、Yuoutube、その他SNSなどで情報発信の機会
は増えています。各病院でも若いレジデントの先生には、
この誤解についてもしっかりと伝えてくれていますので、
少しずつ変化があるかもしれません。

西先生がおっしゃっていましたが、確かに医療者同士の間
では「緩和ケア」という言葉は便利です。
ただ、一方で患者さん側に立つと、一度付いてしまった
緩和ケア=死が近いというイメージは、簡単には払拭出来る
はずもなく、「そうではないと聞かされ頭では分かっていても」
あまり目にしたくない、家族からすれば本人には聞かせないで
あげて欲しい言葉になってしまっているのだと思います。

最近は「サポートチーム」等の名称や、「緩和ケア」と
いう言葉を極力使わずに緩和ケアを行っていこうとする
流れがあるようです。これは、患者さんが受ける抵抗感
に配慮したいと考える医療者も増えているということでは
ないかと感じています。

医師になって20年、その殆どを緩和医療・ケアに携わり、
歴史を見て来た自分としては、「緩和ケア」が正しい意味で
使われるようになる未来が来るとしても少し先の話だと
思っています。しかし、それまでにも今、助けを必要と
している患者さんに助けが届くように、「緩和ケアと呼ばない
緩和ケア」の実践を私は模索していきたい。そして本当は全て
の医療に緩和ケアが当たり前になって、緩和ケアという言葉が
不要になるのが理想なのだと思っています。