Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

訪問をお断りすること

今回は日記のような内容になります。

開業して、7月1日で7年目を迎えます。
訪問診療の殆どは紹介で成り立っています。
病院の連携室、訪問看護師さん、ケアマネジャーさん
が、「この患者さんは虎太郎先生が合っているのでは」
と考えて下さりご紹介を頂くことはただただ感謝しか
ありません。

しかし一方で、一人開業医、(一年に1回くらいは
連携しているクリニックに助けてもらうことがあり
ますが)なのでおのずと担当出来る患者さんには限り
があります。私は外来もやっていて看取り間近の患者
さんも常にいるので、月60~70人くらいでも結構
いっぱいいっぱいになってしまいます。
家族にもただでさえ、旅行は無理・夜中に電話が
鳴ることも多く子供の学校行事にも参加出来ない。
これ以上犠牲にすることも私には出来ません。

ここで考え得る選択肢は医師を雇い、クリニック
を大きくすることです。それも悪くはないのですが、
そうなるとどうしても「私」のクリニックという
個性が薄くなり、小さなクリニックならではの
良さが失われてしまうのではないかという気持ちが
勝ってしまいます。小さい自分だけのクリニック
だからこそ、いわゆる「チェーン」ではない意味
がある
と私は思っているのです。

そして、同時に患者さんが増えて診察の質が落ちて
しまうならば、これまた私のクリニックを選んで頂く
意味がなくなります。私は名医ではない代わりに
時間をかけて患者さんや家族と「対話」をすることに
私と私のクリニックの価値があると思っている
のです。
キャパシティを越えて患者さんを受けることは
往診までの時間が遅れたり話を切り上げて次を急ぐ
場面が増えるとすれば、そこまでして訪問診療をやる
意味があるのかとすら思います。

一方で、せっかくの紹介をお断りすることも残念ですし、
やはりお断りをするとしばらく紹介してもらえないこと
もあります。頼む側の気持ちになれば「あそこはいつも
いっぱいだから」という印象を持つと、(実際はそんな
ことはないのですが)紹介が遠のいてしまうのも無理は
ありません。

開業仲間と話した時に、「受けきれずにお断りすること
がある」というと驚かれます。「それはマズいですよ、
先生」という感じで言われてしまいます。
都内は訪問診療が多く、皆さんお断りすることなどない
のが常識のようです。紹介して下さる方の気持ちを
考えれば、そうだよなぁと思う部分もあります。

ここは相当にジレンマです。
しかし、それでもやはり質を落としてまで患者さんを
受けることは患者さんに失礼
ですし、
そんなものは正義でも美徳でもないという想いが
どうしても私にはあります。
自分が患者さんの側であれば、
あるいはチームを組んで働く立場であれば
手を抜くくらいなら断って頂きたい
ですのでやはり、紹介して下さった方には大変申し
訳ないのですが、受けられない時は誠意を込めて
お断りをさせて頂こうと思っています。