Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

危険を事前に伝える難しさ

眠剤に関係すると思われる転倒が、時々起こります。
そもそもあまり処方したい薬ではないし、
最大限注意はしますが、それでも起こります。
特に、がんの終末期では皆さんぎりぎりの状態で
トイレまで歩かれるので、転倒の確率は飛躍的に
上がってしまいます。

転倒の危険は、私はかなりしっかりと話していますが、
いざ転倒が起こると事前のお話を「聞いていない」と
おっしゃるご家族が少数ですがいらっしゃいます。
この時は、
「後遺症の残る怪我もあるので気を付けて下さいと
お話しましたよね?」
と具体的な言葉を言うと、「あ…」という表情に
なります。ちなみにこの、「後遺症が残る怪我」と
いうフレーズは、インパクトがあるのか
経験上皆さん覚えているようです。

話は逸れますが、眠剤は常習性や転倒等の副作用の
ために使用すべきではない
という考えの人もいます。
私はそのような主張をしたくてこの話を出したわけでは
ありません。薬には作用と副作用があります。
患者さんの不眠ののつらさをの傾聴し
メリットとデメリットを天秤にかけ
副作用の懸念は皆で注意して処方を決めれば良いと
私は考えています。
不眠や常習性の可能性で処方すべきでないなら
オピオイドなんて使えないのではないですか?

こうした「転倒」とか、ほかに「急変」等といった言葉は
ご家族も何度もお聞きになっていることと思います。
こうした事態を時々経験する医療者は、
注意喚起や気持ちの備えをして頂けるようにと
つい何度もしてしまうものです。

次第に「またか」になってしまい、聞き流されて
しまうようになるのかもしれません。
「転んだことないので」
「誤嚥したことないので」
等で片付けられてしまうこともあります。
こうした話を何度もされるご家族がうんざりする
のもまた当然で仕方ないことなのだろうと思います。

そして、頭では理解していても、
いざ事が起こってしまうまでは本当の意味では
重大さはなかなか分からない
ものなのでしょう。
人間の想像力の限界かもしれませんし
どこかで「きっと起こらない」とか
「細かく考えたくない」という心理が働くのかも
しれません。
そして人間のこうした思考や心理が
ACPを難しくしているようにも思います。

誰に対しても過不足なく起こり得る問題を伝え、
備えて頂く。これはとても難しいことで、多くの
医療者も同様の悩みを持っていることでしょう。