Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

認知症介護を取り巻く感情

認知症のケアで最もやってはいけないことのひとつは、
御本人の記憶違いや出来なかったことに対して厳しく
注意したり叱責することだと思います。
もちろん一生懸命介護をしている家族を責める意図は
ありませんし、仕方のないこともあると思います。
ただ、ほぼ確実に「倍返し」があると思った方が良い
です。介護は余計に大変になります。
これは認知症以前に、人と人の関係が、「怒り」で
良い方向に向かうことは殆どあり得ず、
ほぼ関係を悪化させることしかない
からです。

良く言われるように、認知症の方でも感情に基く
記憶は保たれやすく、言われた内容は覚えていなくても、
嫌なことを言う相手に対して怒りや不安等の
ネガティブな感情を抱くようになります。
これは興味深いところですが、やはり自己の生存を
脅かすかもしれない相手を「敵」として認識する
本能のようなもの
が失われにくいのかもしれません。

もちろん、良い介護、良い言葉掛け、笑顔で
BPSDが少なくなるであろうことは想像出来ます。
一方で、これらで全てが解決出来るかと言えば
認知症介護はそれ程甘くはないとも思います。
それでも出来る限り患者さんの怒りや不安を減らす
方向に努力した方が良いのは言うまでもありません。

お話したことがあるかもしれませんが、
認知症の親に間違いを分からせようと言動を動画に
撮って、後で忘れた親にその動画を観せた方が
いらっしゃいます。しかし、当然ながら親御さんは
狼狽しパニックになっただけで、精神状態はより悪化
しました。

こうした出来事は家族が特別冷たいわけではないと
思います。以前も書きましたが、親の介護を引き受け
ようという方が、特別冷たいとは思えません。
しかし、介護は精神的に疲労していくもので、
その疲労や沸きあがる負の感情に対して、「頑張る」
ことで乗り切ろうとしないことが大切だと思います

自分にはそれが出来るという方に限って
結局は親を、御自身を追い詰めてしまうという例を
私はたくさん見て来ました。

御本人と思い切り離れるためのデイサービス等の
利用や、息抜き、カウンセリングや心療内科の利用。
不眠や患者さんの病的な怒りに対する薬の利用、
これらは積極的に考えていくことをお勧めします。
あくまで経験論ですが男性はこれが特に苦手で、
頑張っているのに介護がますます苦しくなり、また
他の兄弟との関係もぎこちなくなってしまう傾向が
あるように思います。
受験や会社は「頑張る」ことで良い結果が待っていた
かもしれませんが、介護を同じに考えない方が良いです

本質的に介護は仕事と違います。子育てには少し近い
部分があるかもしれませんが。

最後に、周囲の理解も非常に大切です。
介護がそんなに大変だとは思わなかった、等と言う方は
是非ボランティアで施設に入ってみて下さい。
大変なんてものではないです。
精一杯やっている介護者を責めることも、
患者さん御本人の療養の環境を悪くするだけ

百害あって一利なしだと私は思っています。