Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

在宅看取りと事故物件

先日Twitterでお世話になっている方からお聞きし、
考えさせられたことがありましたので、皆さんにも
共有したいと思い記事にさせて頂きます。

貸家で殺人事件や自殺があると、そこは事故物件
として扱われ、当然ながら入居希望者が減り、
家賃をかなり下げる必要が出て来ます。これは
アパートやマンションを貸す側からすれば大きな
損失です。

では、患者さんが病気や自然死で家族に看取られた
場合はどうでしょうか。ここまでは私も以前調べた
ことがあり、「事故物件」の定義が曖昧なこと、
しかしサイトによっては「在宅看取りは事故物件
にならない」とはっきり書いてあるものが多く、
私も病死や自然死は事故ではない、当然だよな、
とこれ以上は深く考えないでおりました。

ところが、事態はそれ程簡単ではないようです。
この話をお聞きした時、同時に『大島てる』さんの
「事故物件公示サイト」の話も初めて知りました。
全国の事故物件が地図上に「炎」のマークで表示
されており、初めて見ると非常に衝撃的です。
管理人というか、代表の大島さん(本名ではあり
ません)は、私より若い男性でした。いくつか
記事を拝見しましたが、かなり真面目に、志と熱意
をもってサイトを運営しておられるようでした。

大島さんも、看取りは事故物件ではない、とはっきり
おっしゃっています。ただ、サイトは誰にでも投稿が
出来るようで、一般の方の中には自宅看取りを事故
物件と混同する人はいると思います。また、入居する
人にとっては自殺も病死も嫌だ、というのは当然の
感覚かもしれません。

これは思っていたより大きな問題のようです。
大島てるさんは入居者の立場からの「正義」ですが、
大家さんの立場からは大きな損害に直結しますし、
最終的に自宅で看取りとなった御家族が損害賠償
を求められたり、高齢者や健康に問題があると
思われると入居を断られるケースが多いとお聞き
します。たとえ看取りであっても、大家さん側の
立場では、その風評すら、大きな問題なのです。

同じく、持ち家でも売却に支障が出る可能性がある
という記事も見ました。黙っていれば…と思っても
近所の目、噂などがあり後で嫌な想いやトラブルの
元になると考えると得策とも言い切れないようです。

それぞれの立場が理解出来るだけに、とても難しい
問題で、あまり良い解決策が浮かびませんが、国と
しても在宅での看取りを推進していくのであれば、
まずは事故物件の定義をしっかり定め、看取りは
事故ではないと周知して頂きたい
と思います。
私たちもこうした問題があることをまず知り、
考えを深める必要があります。やがて私たち自身に
降りかかる問題
なのですから。
また、不動産の素人の意見で申し訳ありませんが、
いっそ「看取りOK」「高齢者OK」を提示した
賃貸も受容があるように思います。