Not doing but being

主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

末期がん患者さんの吐下血

報告によりまちまちではありますが、末期がんの患者さんの
1~5%に顕著な吐下血が起こると言われています
。特に吐血
は御本人にとっても死を強く連想する恐ろしい出来事だと
思います。この場合医療者は、家族はどのような対処をすべき
でしょうか。まず、ひとつ文献を紹介します。

Gastrointestinal Bleeding In Advanced Cancer Patient
(Jounal of Pain and Symptom Management 19:160-162,2000)

上記論文では、緩和ケアプログラムを受けている患者のうち2.25%
に顕著な吐下血が起こる
と報告しています。18例の患者さんのうち
10例が48時間以内に死亡、8例が回復しました。
治療は4例が輸血を受け(輸血を受けた4人中3人が生存)、
7例が止血剤を投与されました。内視鏡的治療は受けていません。

予後を明確に分ける因子はADLでした。Karnofsky Performance
Scaleで50以上は全例生存、30以下は1例を除き全員48時間以内
に死亡しました
。つまりADLがほぼ寝たきりで入院を要する程度の
患者さんでは、吐下血による死亡率はかなり高い
という事です。
これはもちろん出血の原因にもよりますし、緊急内視鏡が出来れば
予後改善にはなるかもしれません。しかし、数日以上の絶食や
安静を要するとすれば、これらのADL低下患者のADLは更に低下
する事は免れないでしょうから、やれば良いとも言い切れません

すると一般的な対応としてはトワイクロスにあるように、24~48時間
を経て安定している場合に輸血を考慮する、という対応が妥当

あると思われます。緊急内視鏡が出来る施設では無論optionには
なります。

在宅ではどうでしょうか。こんなものがあります。

在宅終末期がん患者における致死的出血事例の検討
Palliat Care Res 2016; 11(1): 506–09

緩和ケア学会のサイトから全文無料ダウンロードが出来ます。
こちらでは在宅療養中の患者さんで顕著な消化管出血で亡くなった
7例(全体の1.4%)についてのレビュー
です。PSは2以下、1例が
搬送、6例は在宅で亡くなりました。在宅死の6例は全例事前に
出血の可能性について説明を受けていました。出血をきたした
時に医療者はおらず、15分~54時間で患者さんは亡くなりました。
6例のうち1例はジアゼパムの座薬を使用、1例は止血剤を投与
されています。

以上から私が考えることは、急変の可能性を告げる際に消化管
出血について話をすることが重要
だと言うことです。特に肝臓がん
は原発はもちろん転移でも病巣が大きければ顕著な吐下血の
超ハイリスク
であり、当然未切除の消化管のがん、血症板低下や
凝固系の異常、抗血小板薬等の使用、ステロイド、NSAIDs使用例
では話をしておいた方が良いでしょう。出来れば患者さんには
鎮静剤の使用について情報提供しても良いと思います。
PSが0~1では当然積極的治療を視野に入れた方が良いと思いますし、
3~4では苦しみが長くなるリスクを考えた上で搬送・治療を
判断した方が良さそうです

出血が患者さんの苦痛に繋がるかと言えば、ゼロではないに
しても他の様々な症状と比べ大きくはないと思います。ただ、
患者さんの恐怖は普通に考えて大きいでしょう。この時に
家族が、あるいは医療・介護者が治まるまで寄り添えるなら、
色々な意味で難しいかもしれませんが患者さんはこの上なく
安心すると思います。

在宅では、患者さん・家族の恐怖が大きい場合や可能性を話して
いなかった場合は搬送もやむを得ないと思います。一旦は病院に
入ることで御本人・御家族共少し冷静に考え、話をする事が出来る
と思います。再出血のリスクがあるとしても、今度は家で過ごす・
家で対応する覚悟が出来るかもしれません。