Not doing but being

主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

がん終末期の輸液について

昨日は、残された時間のがん患者さんに現れる身体的
な変化について簡単にお話しました。患者さんの食事
や移動能力、眠る時間等がどれくらいの速度で変化して
いるか。また時にはがんがCT等でどれくらいの速さで
大きくなっているか、採血の結果はどうか等も参考にして、
私達は患者さんの残された時間を推測します。

この他に、がん患者さんの予後を客観的に予測する
ためのツール
もいくつか報告されています。
有名なところではPPI(Palliative Prognostic Index)
やPaPスコア(Palliative Prognosis Score)等が
あります。

www.kango-roo.com

こういった知識を持つと、がんの患者さんが少しずつ衰弱
され「食べ物を受け付けなくなった時、あとどれくらいの
時間が残っているか」という事が分かって来ます。
「口から物を食べられないようになると早い」と言われ
ますが、多くは週の単位から二か月はかなり難しいと考え
られます。

これまでは殆どの方が、「食べられないなら点滴だ」と
考える事が多かったと思います。しかし「高カロリー
輸液」を除き、点滴で得られる栄養は非常に少なく、
とても体力を維持出来るものではありません。後に述べる
点滴の欠点を考えれば、飲水が出来るうちは点滴は避けた
方が良いと思います。

「水分が数口以下」になってしまうと、そのままでは患者
さんは数日からせいぜい一週間程度で亡くなってしまいます

この場合には、輸液を行い水分を確保することで多くは
週単位の延命を図ることが出来ます

しかし、点滴の欠点がない訳ではありません。まず第一に、
水分も摂れないくらい衰弱した状態で命を長らえる事は
本当に患者さんにとって良いことなのでしょうか

家族との時間を楽しみ、話したり笑ったり出来るのであれば
週単位の延命でも貴重でかけがえのない時間です。しかし
もし、病院で一日の大部分を天井を眺めて苦痛に耐える
時間が延びるだけでは、私には「真綿で首を締められる」
ような印象をどうしても持ってしまいます

御本人の希望ではなく周囲の意思で点滴を行うのであれば、
このことも考慮に入れた上で判断して頂きたいと思います。

点滴で得られるメリットの中で「せん妄を減らす」「覚醒
を良くする」というものはありますが、これは逆に言うと
御本人の苦痛や恐怖を更に強くすることとも考えられます

一方、口渇や倦怠感などの症状緩和についての効果は
どうでしょうか。他に胸腹水や浮腫の増加、気道分泌物への
影響など終末期の輸液が患者さんのQOLに与える影響について
は、緩和医療学会の『終末期がん患者の輸液療法に関する
ガイドライン』に詳しいので興味がある方は是非ご覧下さい。
一言で言うとQOL改善には殆ど役に立たず、場合によっては
悪化すると言えそうです。

個人的には、上記ガイドラインに書かれた内容以外にも
点滴を抜いてしまうから、と身体や腕を固定されてしまう
こと(抑制)
、だんだん血管がとれず一日に何度も針を
刺されるようになることや、トイレに移って用を足したい
という患者さんにとってのトイレの往復が増える等も
細かいことかもしれませんが患者さんの苦痛を増している
と思います。

私はどうしても自分が辛くない最期を過ごしたいので
輸液は出来ればしない方が良いと考えてしまいます。
しかし、辛かろうが苦しかろうが少しでも長く生きて
いたいという考えの方もいらっしゃるのは事実です。
私の希望は皆さんが点滴をしなくなる事ではなく、
点滴のプラス面とマイナス面を正しく理解したうえで
選択をするようになって頂きたいという事です