高齢者の認知症とうつ病の鑑別
昨日、高齢者の認知症とうつ病の鑑別が困難な場合
がある事に触れましたので、その見分け方について
お話をさせて頂きます。医療者には当たり前過ぎる
内容かもしれません。
まず、区別と言っても認知症の患者さんにうつ病が
発症する場合もある訳ですから、判断が難しい場合
は当然あります。昨日の和田先生の本ではないですが、
うつ病は著しく回復し得ること、またうつ病は自死
の恐れがある事を考えると出来る限り鑑別を試みる
べきです(つまり、まずはうつ病なのかそれ以外
なのか、という視点が重要だと思います)。
さて、基本事項としては、うつ病と認知症スクリーニング
として用いられるお決まりの質問があります。
https://mainichi.jp/premier/health/articles/20170424/med/00m/010/001000c
「うつ病と認知症を見出す魔法の質問」とありますが、
魔法でも何でもありません。抑うつ気分と興味・喜び
の消失を尋ねる、例のアレです。認知症では年齢を
訪ねます。詳細は上記リンク先のブログに譲りますが
感度・特異度の優れた質問です。
とは言え、これだけではもちろん診断になりません。
アルツハイマー型認知症に限って言えば精度は高い
かもしれませんが、年齢をスラスラ答える認知症も
稀ではありません。
コウノメソッドの河野和彦先生は、メソッドの中で
うつ病と認知症鑑別のツールを紹介しています。
『バランス8』というもので、当てはまる
設問が多い方に問題の中心があると考えます。
分かりやすいですが例によってエビデンス
については触れられておらず統計学的な裏付けは
アヤシイです。しかし鑑別に重要な質問が並んで
いるのは確かです。下記がバランス8です。
特に長谷川式の遅延再生は、アルツハイマー型の
認知症を拾い上げるのにはとても参考になるはずです。
また、迷子は私もありますが(笑)慣れている場所で
何度も迷子となるとかなり疑わしくなります。
とは言え、典型的な前側頭葉型の認知症では普通
迷子になりません。頭痛はうつ病でとても多い症状
です。
その他鑑別に大切な点は、認知症が年単位などゆっくり
発症・増悪することが多いのに対してうつ病は割と
突然に起こります。また、忘れっぽさの自覚(但し
脳血管型認知症やレビー小体病などでは自覚が強い
こともあります)、またCDT(時計描写テスト)等も
かなり特徴的な結果が出れば診断に大きく寄与します。
無論、CTも参考になりますが、紛らわしい結果では
かえって混乱してしまうかもしれません。あくまで
参考とすべきです。
診断が間違っていても治療開始直後は投薬で改善兆候
がみられる場合がないとは限らないのがクセモノで、
「中には紛らわしいケースがあり注意が必要」という
意識は治療開始後も常に必要ではないかと思います。