Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

糖質制限で糖尿病が増加?

私自身、5月6日から糖質制限を行っています。緩めに行って
いますが本日で最低体重を更新し、8.9kg、体重が減少して
います。過去のダイエットと比べ、楽で効果が高く、体調
が悪くなったり体力が落ちたりしないので自分には合って
いると思っています。


さて、いかにも胡散臭いタイトルの記事ですが掲載は9月11日の
『NEWSポストセブン』です。

news.nifty.com

何かが流行るとアンチが必ず出てきますし、言っては何ですが
大衆娯楽系の雑誌は売れそうなものは何でも記事にします。
また正直、長年カロリー制限を指導して来た医師には糖質制限が
受け入れられないのはなんとなく分かります。
それはさておき、どの程度の内容なのか私も目を通してみました。
しかし、これはひどいですね。

まず、統計を含めた反論は、江部先生がブログで丁寧に書いて
おられます。きとんと勉強したい方はお読み頂ければお分かり
かと思います。こちらの、2017年9月12~13日をご覧下さい。

koujiebe.blog95.fc2.com

江部先生のように丁寧に議論しなくても、糖質をふんだんに
摂った時と、制限食を摂った時で血糖を調べ、比べてみれば
すぐ分かります。制限食では血糖そのものがあまり上がり
ませんので、一目瞭然です。血糖が上がる食事と上がらない
食事では、HbA1cはどちらが高くなるでしょうか。考えるまで
もないですよね。

もっとひどいのは、糖質制限で『糖新生増加』や『膵臓β細胞の
機能低下』が起こるのではないか、という部分。ここも本当に
浜松医科大学名誉教授が言ったことであれば、血迷っている
言うか…浜松医大は大丈夫でしょうか。

『糖新生』は江部先生がおっしゃる通り常時起こっている現象
ですし、糖尿病治療でもカロリー制限でも増加しますから、
糖新生で糖質制限を批判するならこれは完全にブーメランです。
むしろ、しっかり蛋白質や脂質を摂ればエネルギー不足には
なりませんから、糖新生は多くはならないはずです。

また、インスリンの分泌量が減ると膵臓のβ細胞の機能低下
が起こるという説明は、これまでインスリン分泌が増えると
β細胞が疲弊し、やがてβ細胞の機能低下に至るという、
これまでのインスリン抵抗性についての説明の逆です

私自身、糖質制限にはまだまだ慎重であるべきだとは思って
います。特に糖を全く摂らない、肉は無制限にOK等の極端な
糖質制限は、個人的にはどうかと思う部分もあります。

しかし、今回のなんとかポストの記事のような屁理屈や『統計遊び』
は害でしかありません。それより糖質制限の効果に多くの糖尿病の
専門医が効果に驚き、急速に広まっているのにはそれなりの理由が
あると考えるべきではないでしょうか。

私から糖質制限に興味を持っている皆様に申し上げたいことは、
自己流で闇雲に始めることは勧められません。
特に江部先生の言うところの『スーパー糖質制限』などは、
いきなりやると具合が悪くなる方もおられます。私は数ある
糖質制限の本の中では、書き方が慎重で偏りがない、山田悟
先生の著書が一番お勧めです。

糖質制限食のススメ

糖質制限食のススメ

また、ゆうき先生原作のこの漫画、かなり俗っぽいですが、
つっこんだ知識もあり、気軽に糖質制限を知るには良いと
思います。

マンガで分かる肉体改造 糖質制限編 (ヤングキングコミック)

マンガで分かる肉体改造 糖質制限編 (ヤングキングコミック)

「自宅で最期」が意味するもの

昨日に引き続き、新城先生のブログからお話をさせて頂きます。

drpolan.cocolog-nifty.com

また、自宅で過ごして私のような在宅医が治療やケアを行って
いても、本当に家で亡くなりたいと本心から思っている人は
全体の3割です。ということは、残りの7割の患者は入院できる
病院を私が探さなくてはいけない
ということです。だから
在宅で何が一番大変かというと、家で最期を看取ること
ではなく、患者や家族に入院したいと言われたときに
入院できる病院を探すこと
です。

※赤字は私が勝手につけました。

本当にその通り!と思います。病院でどのような聞き方をして
いるか分かりませんが、「自宅看取り希望です」と紹介される
ことがあります。希望は本人なのか、家族なのか。そしていわゆる
「急変」の場合も、搬送せずに自宅で亡くなることを希望されて
いるのか。こちらで確認してみるとニュアンスが異なる場合も
少なくありません
。新城先生が感じておられる葛藤を、私も以前
のエントリーで書かせて頂いたことがあります。とても大切な
内容だと思いますので、興味がある方は是非お読み下さい。

kotaro-kanwa.hateblo.jp

淀キリの『緩和ケアマニュアル』には、『急変』を「予期
せぬ突然の病態の変化」と定義したところ、15.4%の患者
さんに急変が起こる
とあります。部位別では頭頚部がんが
トップで、28.3%です。脳浮腫や痙攣でしょうか。全体と
しては出血、呼吸不全がそれぞれ全体の30%を占めます
(ただ、逆に言えば急変のない多くの方は自宅看取りは
困難なことではないとも言えます)。

このような急変が起こった場合、いくらそれまで自宅療養
を希望されていたとしても考えが変わることはいくらでも
あります。このような場合、以前かかっていた病院に入院
をお願い出来れば良いですが、断られてしまうと患者さん
家族も私もかなり大変です。

上記の過去記事にも書きましたが、確かに搬送すれば患者
さんの苦痛がとれるか、楽になるのかは疑問もあります

夜間休日では病院も手薄ですし、当番医が緩和に長けて
いるとは限りません。病院は「亡くならないようにする
医療」が優先されるのが常ですし、延命で苦痛を感じる
時間が長くなる可能性もあります

しかしここで私が「パターナリズム」を発揮し、搬送する
よりも自宅で亡くなる方が良いのだ、と看取りを誘導する
ことはどうなのでしょうか。大切なのは私達の信念を
通すことではなく、究極の場面で患者さんや家族の強い
想いを優先することではないかと思うのです
(もちろん、
事前にお話をしていますし、自宅を選ばれる方も多い
ことは付け加えておきます)。

ホスピスは誰のため?

9月4日、久し振りに更新されていた新城拓也先生のブログから。
先生はホスピス勤務を経て現在神戸で訪問診療をされています。
お会いしたことはありませんが、恐らく私とは同世代で、ホスピス
→訪問医という流れも同じですし、共感出来る部分も多い先生です。
また知識やスキルは一流でありながら誠実で良い意味で器用では
ない先生で、そういうところも含めて心から尊敬する緩和ケア医
の一人です。

drpolan.cocolog-nifty.com

記事は講演の内容を3回に分けてアップしたもので、今日の
お話は「前編」に当たる部分です。新城先生が医師になり、
ホスピスに勤務する中で感じられ、考えられたことが書か
れていますが、その中で特に共感したのが

一番驚いたのは、ホスピスには、最期を迎えるにあたり
こういうところで生きていきたい、そして死んでいきたい
と、自分で望んだ患者たちが来ると私は思っていました。
働きだしてわかったのは、そんな人はほとんどいない。
大きな病院から、ベッドが満床になった、入院日数が2-3
週間を超えたという理由などで回されてくる。患者も家族
もホスピスに来ることを求めていないのに、病院から転院
を促されてくるのです。

の部分でした。私もホスピスにやって来た頃は、「ホスピスとは
患者さんが自ら選択して入る病棟である」と思っていました。
「自分で決めた人生」を支援するのがホスピスではないのか、と
当時は結構ショックを受けたことを思い出しました。

新城先生がおっしゃる通り、入院期間に制限のないホスピスは
一般病棟にいられない、家族が様々な理由で家で看られない
方々の、「長期入院が許される場所」として期待されている
全てではないにせよ、そういった部分は多分にあります。

ホスピス開設当時から仕事をしている看護師さんは、オープン
当初は望んで入院する方も多く、好きなことをして生き生きして
いる患者さんも結構いらっしゃったとのこと。

もちろん、私も看護師もボランティアもチャプレンも、望まない
でやって来た患者さんであっても、入院している患者さんの苦痛や
孤独を癒す義務と考え、今出来ることは何か、どうすれば良いと
思うか等日夜相談し最善と考える医療を、看護を提供して来ました。
今のホスピスもそうだと思います。一般病棟とは目的が違うので
比較するのは適切ではないかもしれませんが、穏やかでより良い
時間を過ごせる可能性は高いと思います。そのための工夫も、色々
なところに見つけることが出来るでしょう。

しかし、いくら私が「ホスピスは死ぬ場所ではなく生きる場所
です」
と言ったところで、一般的には死を連想する場所なのは
確かなので、「こんなはずじゃなかった」、「家に帰りたい」
と思いながら最期を待つのであればホスピスも良い場所には
なれないかもしれません。仕方ないこととは言え、残念なこと
です。多くのホスピス医がやがて在宅を意識するのはそういった
部分もあるのではないかと思います。

次回以降も新城先生のブログで触れられている話題について
自分なりの考えも加えて紹介させて頂こうと思っています。