Not doing but being

主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

「老人性うつ」

老人性うつ (PHP新書)

老人性うつ (PHP新書)

老年精神科医、和田秀樹先生の著書。
なんと言ったら良いのだろう…。
一言で言うと、この先生は大丈夫だろうか、
という印象が拭えません。

たとえば、「今や認知症そのものが250万人」
という記載があります。この本が書かれたのは
2014年ですが、厚生省の統計では2012年に既に
認知症の患者さんは460万(下記リンク)と言われ
ており、なんと倍の開きがあります。認知症の
専門家がこれで良いのでしょうか。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000065682.pdf

また、何を根拠におっしゃっているのか不明
なのが、「認知症のBPSDは1割にみられるのみ」
と言い、認知症は「基本的に老化現象であり多幸的
でだんだん大人しくなっていく」と書かれています。
よほど優等生の患者さんばかり診ておられている
ようです。BPSDの話をするのに
多様な患者さんを「認知症」と大雑把
に括っている時点でどうかと思います

極めつけは、キリスト教が「若いほどいい」、
「稼げるほどいい」という価値観、これは
キリストがおよそ30歳で死んだので老いが理解
出来ない
、等と書いてあります。クリスチャンの
皆さん、キリスト教ってそういう教えですか?
「高齢者は老人というだけで敬われるべき」みたい
なことを書いておられますが、その後に
「ふてぶてしい高齢者もいる」的な発言もあり、
ただの理想論を「言ってみただけ感」が半端ないです。

話は逸れますが、「ガンになったら亡くなる晩年の
三年間くらい、痛い、苦しい思いをすることに
なると考えられている」等という、緩和ケア医と
しては見過ごせない発言もあります。一体誰が、
「そう考えて」いるのか
曖昧で誤解を生む表現です。

さて、本の主題「老人性うつ」に関しても、
「認知症と誤診され改善のチャンスを失っている
高齢者が多い」という、今更な内容がしつこく
繰り返されているのみ。治療もSSRIを勧めるだけ
のシンプルな内容。いくら一般向けの内容だと
しても、もう少し踏みこんだ内容に出来たのでは
ないかと。正直、薄いです。

経験上ですが、どちらかと言うと認知症の患者さん
がうつ病と誤診されているケースの方が圧倒的に
多く、抗うつ薬を減らすことで改善する例が多い
ように思います(抗うつ薬は医師の指示のもとで減量
すること!)。むしろうつ病と認知症の鑑別こそ
が重要で、丁寧に診れば困難なことは少ないと
思います。また、一部分かりにくい患者さんにしても
一度診断した後も治療で改善しないのであれば、立ち
止まって考え、治療を修正出来れば問題を最小限に
抑えることが出来ます。

申し訳ないですが、この本は私には合わなかったです。
ハインツ・コフートの「自己愛が満たされなくなった
時に、精神状態が悪くなる」
という言葉のみ、参考に
なりました。