Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

24時間体制、個人的な考察

最近、とある訪問看護ステーションが24時間対応の体制を
やめたとお聞きしました。長くお付き合いをさせて頂いて
いるステーションで、今後も良い関係を続けられたらと
思っていたので残念に思いました。

もちろん、考え方の問題であり良い悪いではありません。
対応をしたくても、職員の考えや体調、人員の確保が
困難など色々な理由もあると思います。

しかし冒頭で私が「残念」とお書きしました。何故残念に
思ったのか自分なりに分析してみました。
まずは私が重症者や看取りを担当することが多いこと。
一方で24時間体制を敷かないということは恐らく軽症の
患者さんを担当することを意味しますので、単純に物理的
に連携の機会は減るでしょう。

また、私は「医療連携」の本質は、「困った時はお互い様」
だと思っています。しかし24時間のうち約2/3は診療時間
外であり、土日祝日を入れると大半の「困った時」は相談
も出来ません。私はこの「お互い様」の部分に役立てる
ことに嬉しさややりがいを感じています
ので、価値観や
信念などの精神的な部分でも相違を感じてしまいます。

患者さんにとってはどうでしょうか。厚生省の資料では、
訪問看護を利用されている患者さん・家族の少なくとも
半数以上は、24時間の対応があることを重視しています。
これは、サービスが始まった時は24時間対応でなくても、
困った時はいつでもそうして貰える、という「安心感」
に他なりません。24時間対応が出来ないということは、
体調が悪化した時にはステーションを変更しなければ
ならず
、体調が悪い時に慣れた看護師さんが担当を外れる
気持ちを想像すると、「それなら最初から別のステーション
に」となる方が多いことも想像に難くありません。
医師の場合、訪問診療では「24時間体制」が義務ですが、
仮に日中しか対応しない訪問診療が許されたところで、
いくら優しくて良いDr.でも患者さんを紹介する時には
そこだけで躊躇する場合があると思います。

ビジネスとして考えた時も、確かに24時間体制はコスト
パフォーマンスが悪く、一見割に合わないかもしれません。
ただ、上でお書きしたように数字に現れにくい、「信頼」
という部分で、新規顧客を逃してしまうなら、長い目で
みてかえって損失が大きいように思います。
もし24時間の体制をとらないのであれば、「精神」や
「フットケア」等、他との差別化、「売り」を作ること
が出来ればそれは大きな強みになるかもしれません。

ただ、

kotaro-kanwa.hateblo.jp

上でも書きましたが、もちろん考えが違うと連携出来ない、
ということではプロではありません。今日は個人的な考えを
随分と書いてしまいましたが、考え方の相違や限られた条件
の中でも患者さんに対してベストの結果が出せるように
常に
考えていかなければいけないと思っています。

ACPのポスターに思うこと

厚生省の発表した、ACP普及のためのポスターに批判が
集まり、自治体へのポスターの発想やPR動画の公開を
中止にしたという記事が出ていました。

www.asahi.com

このポスターは厚生省が吉本興行へ作成を依頼していた
ものらしく、対象は「ACPは他人事」と思っている若年者
から健康な40~50代を意図しているのは明らか
であり、
そうであれば逆に長閑な風景や人々の笑顔のポスターで
あれば、全くと言って良いほどインパクトはないでしょう

吉本興行なら、多くのこれらの人々の気持ちを掴むことが
出来ると思ったのかもしれません。

しかし当然のことながら、ポスターは闘病中の患者さんや
その御家族の目にもとまります。嫌というほど自身の死
や家族の死について考えざるを得ない方々が、それでも
なんとか希望を探し、より良く日々を生きていたい、と
いう時に、このポスターは残酷でした。批判する気持ち
も当然であると思います。

健康成人に向けたACPと、療養中の患者さんに向けた
ACPは、実は全く考え方が違います
。前者は遠い将来に
対する仮の意思表示となり、これまでの研究で目に
見える効果はないと言われています。しかし、逆に
病気になった時は老いや病により思考力や意欲が
失われ、このポスターへの批判が象徴するように不安
や恐怖で自身の死を前提とした話し合いの準備が
最後まで出来ない方も多い
のです。

どちらも難しい面を持ってはいるのですが、私はむしろ
健康な成人にACPを積極的に知って頂き、体験して頂く
ことを期待しています
。これは、ADやACPというもの
が「何か」を知って頂く機会であり、自身の将来を
考えた時こそが、延命や死に対する知識を得るチャンス
でもあります。その知識は将来、自分自身だけでなく、
親や配偶者、治療を考えるうえで影響を与えることに
なるのではないでしょうか

「厚生省が推進している」ということから、不信感や
警戒心を持つ方が多いようですが、ACPとは患者さん
本人と信頼する他者(家族・医療者・友人)との対話
を行うこと
に他ならず、何かを決めることでもなければ
誰かに強制されて行うものでもありません
。ですので
ACP自体は批判を受ける内容ではなく、患者さんの
より良く生きるために、また愛する家族を必要以上に
苦しめないために話し合う「権利」に他なりません

そして「人生会議」という言葉も、(採用したのは
厚生省かもしれませんが)ICUで働く若い看護師さんが
日々苦しみながら亡くなる高齢者を看て、「これが、
患者さんが望んだ最期なのだろうか、患者さんが
望む生き方や最期を家族と気軽に話し合えたら」
という
願いを込めて考えた名称です。

ACPが普及しなければ、私も皆さんも認知症になり、
あるいは重い怪我や病気で会話が出来ない時、選択
家族と医療者にお任せで本当にそれで良いですか

ポスターに反対するのは良いですが、このような
状況に、誰でもすぐにでもなる可能性があります。
考えることが出来るうちに考えおく、メリットは
計り知れないほど多いと思うのですが。

介護サービス導入の不安や抵抗感について

癌で療養中の患者さんが訪問診療を希望する段階、つまり
病院に通うことが難しい時、その患者さんに残された時間
は2~3か月以内ということが多いです。そしてこの2~3
か月は、これまでの数年に比べてずっと症状の変化が大きい
です。私達は多くの患者さんを診ていてそれが分かっている
のでつい、患者さんが困る前にあれこれとサービスを整えて
しまいがちです。

もちろん、背景には「何かあってから」サービスを見直すの
では対応が後手にまわり、調整が慌ただしくなり、土日や
祝日等が重なり導入が遅れると患者さんや御家族が大変な
想いをするだろう、ということが一番大きいです。出来る
看護師さんやケアマネさんほど、患者さんの変化が想像出来
ますので先手を打ちプランを立てることだろうと思います。

ただ、あまりに手際が良いと患者さんや家族が戸惑うことも
多いです。特に直前まで介護保険を利用していなかった方は
サービスに抵抗を感じたり、不信感を持つことが多いように
思います。御本人もしっかりされている方の場合、手すりや
ポータブルが用意されることは尊厳を傷付けられたと感じ
やすく、また病状が悪化したことを認めるようなものなので
なかなか受け入れ難いとも仕方ないと言えるでしょう。

意外と多くのご家庭が、十分と考えられるサービスを受けて
いない
ことが度々指摘されており、これに関する調査も
行われています。サービスに対して不安や抵抗を感じる
御家族は、アンケートにより多少差がありますが50~
70%程度に上ると言われており、理由は上記病状に対する
心理的な理由のほか、

1.介護は家族がするという考え
2.サービスの仕組みや料金への不満
3.経済的な理由
4.他人に任せることへの抵抗感・気遣い
5.その他、サービスの理解(制度が難し過ぎる)、意思決定
能力

などが挙げられています。切羽詰まった状況であればそうも
言っていられないのですが、上記のように「前もって」
サービスを導入する場合には尚更不安感や不信感が先に
立ってしまいやすいと思います。

また、良いことではないですが一般的に患者さん御本人
が「家族の負担」を気にしてサービスの導入に積極的、
ということは少ないようです(もちろん例外はあり)。
特に男性の被介護者が奥さんに気を遣うケースは少なく、
また娘さん、お嫁さんに対しても同様のようです。金銭面
の負担はとても気にされる方が多いのと対照的
です。

サービスを提供する我々はまず、医療者側の思うベスト
なサービスと患者さんの気持ちには差がある
ことが当然
であることを前提とし、特に信頼関係が築けて不安が
軽減するまでは無理に勧めない方が良いかもしれません。
正しい情報を理解出来ていない場合もありますので、
息子さん、娘さん等に医師などから直接必要性を説明して
もらうことも大切だと思います。