Not doing but being

主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

ホスピス医を目指す私が言われた言葉

医師になる前から緩和ケアに興味があった私は、がんという
病気を学ぶために消化器内科が良いと考え入局しました。
消化器は、食道がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、
胆嚢・胆管がんなど悪性疾患の患者さんが多いのが理由です。
しかし、医局の先生たちは好きでしたが、大学は私が考えて
いた理想とはかけ離れた場所でした。消化器内科は上下部
内視鏡・ERCP・肝生検や肝動脈塞栓術などの手技をマスター
することや研究が中心であり、緩和ケアなど皆無でした。
今考えてみると良い判断だったかどうか分かりませんが、
私は苦痛を感じて3年で医局を辞めてしまい、ホスピスを持つ
一般病院の門を叩きました。そこで私は内科を担当しつつ、
徐々に緩和ケア病棟に関わらせてもらうようになりました。

当時、近隣のホスピスを見学する機会が何度かありました。
そこで色々な病院の先生から話を聞くことが出来ました。
この時頂いた中で一番印象に残り今でもいつも思い出して
いる言葉があります。それは

「がんの治療を経験していない医者がいきなりホスピスを
目指すと、おかしな方向に行きやすい」

というアドバイスでした。これは大学病院を早々に辞め、緩和ケア
をやりたいと思っていた私には、まさに「図星」だったと思います。
本当に、その通りだと感じました。この言葉があったからこそ
その後私はシニアレジデントとして各科をローテートし直し、
ERでの仕事も経験することが出来ました。

緩和ケアに辿り着いた患者さんには、「生きたい」と願い
辛い治療に耐えて来た歴史
があります。緩和ケア医が、
その歴史を想像出来ず「苦痛をとる」ことだけが最上の目標
になってしまえば、「辛くなければいい」になり
、痛いと
聞けば痛み止め、それでも痛いと言えば増量、更に苦痛が
強ければセデーション、といった対応だけになりがちです。

しかし多くの患者さんは苦痛を減らすことが出来れば、
自分らしく生きていたいのではないでしょうか。
痛くなければそれでいい、なんて軽い人生を生きている
わけではない。だから皆治療を頑張って来たのでは
ないでしょうか。

緩和ケア医の務めは、薬の処方の前に患者さんのナラティブ
に耳を傾け患者さんの人生に伴走することです。そして
難しいとは言え、私達が本来大前提として目指すものは、
「苦痛なく死ぬ」ことではなく、「苦痛を軽減して、生きる」
こと
だということを忘れてはいけないように思うのです。