Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

「なんとめでたいご臨終」で私が感じた違和感

なんとめでたいご臨終

なんとめでたいご臨終

昨日、この本の紹介をさせて頂きましたが、本日は
その続きです。書籍の主旨には賛同しますし、決して
ケチを付ける目的ではありませんが少々否定的な
書き方になりますので読みたくない方は今日の記事は
飛ばして下さい。

その前に、まず訪問診療医として長年活躍された後、
自らも末期がんで在宅医療を受けることになった、
早川一光医師について私が書いた記事を御紹介させて
頂きます。

kotaro-kanwa.hateblo.jp

「畳の上での養生は天国」と説いて来た早川医師。自ら
が患者の立場になった時に、「こんなはずじゃなかった」
とおっしゃいました
。早川先生はこう続けます。

畳の上にも「天国」と「地獄」があると知った

とてもリアリティーのある言葉だと思います。ちなみに
早川先生は療養中に肺炎を起こしますが、この時には
在宅医療ではなく入院を選択されています。

「なんとめでたいご臨終」は、在宅医療の「天国」の
部分しか書かれていない
。これが私の一読した時に
感じた違和感のもとではないかと思いました。

同じく在宅医のめぐみ在宅クリニック院長、小澤竹俊先生
の、「100点中10点でも、good enoughと考えよう」という
言葉も、在宅医療の難しさ、奥深さを物語っているのでは
ないでしょうか。

ただ、確かに小笠原先生は在宅緩和ケアを推進する
お立場でこの本を書かれたはずですので、良い事例
ばかりを挙げているのも自然ではあります。わざわざ
御自分の言いたい内容を否定する記事を入れる必要は
ありません。いわゆる症例報告のようなものですから、
コウノメソッドの河野先生がメソッドの成功事例を
集めて紹介することと何ら変わりはないと思います
(「なんとめでたいご臨終」では後半に上手く
いかなかったケースの紹介もありますが、全て
「最後に残念ながら入院になってしまった」話ばかり
で、在宅医療そのものでうまくいかなかったケースの
紹介ではありませんでした)。
ただ、あまりにも良い例ばかりだと、中には
在宅を選んだ後で「こんなはずじゃなかった」
とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。

本の中で紹介されている、行われている医療の内容は、
特別なものではありません。モルヒネの持続皮下注、
ステロイドの使用、ゾメタにサンドスタチン。「夜だけ
眠る注射」はドルミカムの持続皮下注を言っているもの
だと思います。

医療的な内容になりますが、この中でゾメタはもともとSRE
(骨有害事象)の予防目的で使うもので骨転移の疼痛に対する
効果はガイドラインを見れば分かる通り非常に限定的です。
腸閉塞の「特効薬」と紹介されているサンドスタチンは最近
の知見では効果そのものを疑問視する声もありますし、初め
は切れの良いドルミカムも連日使用すれば次第に体内に蓄積し、
目覚めが悪くなります。ステロイドでは「ソル・メドロール」
にこだわりがあるようですが、これはメチルプレドニゾロン
ですので、プレドニンと大差ないはずです。半減期は8時間
ではなくて12~36時間です。

何が言いたいかと言いますと、小笠原先生はそんなに特別な、
優れた治療をされているという訳ではなさそう、ということです。

在宅医療も他の医療と同様に未完成で不完全な医療です。
在宅を選べば即Happyという、単純なものでは決して
ありませんが、それでも患者さんの表情を見ているだけで
「多くの方にとって病院より在宅が良いに決まっている」
という気持ちになることは私も同じです
。私はなかなか
小笠原先生のように根拠もなく「大丈夫だよ」とは言えない
のですがきっと患者さんや御家族が聞きたいのはこの言葉
であり、小笠原先生の笑顔が在宅医療を「大成功」に
導いているのも恐らく間違いないでしょう。