Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

日本は異様に身体拘束が多い?

先日、石川県の男性が身体拘束中に肺塞栓を起こし、その後
死亡した件の判決が名古屋高裁でありました。
この件について私は詳しく知りませんのでコメントが難しい
のですが、亡くなった患者さんは拘束に至る前に看護師への
暴力行為があり、「人を割けば」拘束をせずとも必要な治療
が出来たとする判断には、どこにその「人」がいるのかという
疑問を感じずにはいられません

さて、以下は12月17日の朝日アピタルの記事から。

精神科病院の身体拘束、諸外国の数百倍 「異様に多い」:朝日新聞デジタル

記事によると

研究は日本、米国、オーストラリア、ニュージーランドの研究者が、
それぞれの国で公開されている2017年のデータを使って、4カ国の
精神科病院での1日あたりの身体拘束の実施率を計算、比較した。

とのこと。日本は1日、100万人当たり98.8人に身体拘束が行われ、
オーストラリアは人口100万人あたり0.17人、米国は0.37人、
ニュージーランドは15~64歳の人口100万人あたりで0.03人
であったとのこと。最後のニュージーランドは年齢を区切って
いますが、日本でだいたい同じ年齢層に区切っても62.3人になるとの
こと。なるほど、確かにすごい差です。

しかし、何故このような差が生じるのか。肝心な部分が有料記事
になっているのかと読んでみましたが、記事の続きはわずかで、
なんの考察もなく、正直がっかりでした。

本当に、日本では海外と比べ身体拘束が100倍、あるいは1000倍
も多いのでしょうか?もし、そうだとすると確かに異様です。
しかし、記事が薄過ぎます。

まず、何をもって「拘束」としているのか。4点柵なのか、
専用のベルトで四肢を固定することを指すのか。ミトンだけでも
身体拘束なのか。部屋に鍵をかけたら拘束なのか。
次に、入院期間中のどの程度の長さ、拘束を行った場合に「拘束」
とカウントしているのか。精神科救急では、入院当日だけでも拘束
が必要なことは多いと思います。

認知症患者が精神科病院に入院している日本の状況は特異なため、
認知症病棟での拘束は除外したという。

ここも、よく分からない。精神科病院で認知症病棟にいない
認知症の患者さんはカウントされているのでしょうか。認知症
の患者さんは、せん妄や徘徊などが多く、話がだいぶ変わって
きます
。認知症病棟は除外した、というような曖昧なものではなく
認知症患者さん全てを除外しないと比較出来ないように思います。

そして、やはり一番は患者さんとスタッフの人数です。米国では
看護師さん一人に患者さん一人程度の病院もあるそうです。病棟
の看護師の男女比はどうなっているのでしょうか。男性が複数いれば、
暴れる患者さんを抑えることは比較的やりやすいと思います。
何より、拘束が必要な医療行為をしているか、も大きいです。
例えば酸素やモニタ、経鼻栄養、膀胱留置カテーテルなどは
拘束がほぼ必須になるでしょう。こうした条件を明らかに
しないと、比較する意味がそもそもありません。

この記事を書いた方が本当に身体拘束が多いことを真剣に
減らしたいと考えているのであれば、単に数字を比べ
「もっと減らすべき」的な安易な終わり方をするのでなく、
現地に足を運んで状況を見て何が問題か調べて欲しい。
そうでないと、現場で苦労している医師や看護師さんが
まるで怠けているみたいです。

今回の新型コロナ騒動でも同じことが言えますが、
現場が「人が足りない」と言っているのに何故部外者が
机の上で「データ」を比べるだけで結論を出してしまうのか、
私には本当に疑問です。