Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

BZ系薬中止の議論の前に

2月2日の、AERAの記事です。

dot.asahi.com

高齢者への睡眠薬、安定剤の処方が危険なことは正しいです。
転倒⇒大事な骨を折ってしまうことで取り返しのつかない
ことになるかもしれません。きちんと覚醒していない状態で
食事を摂れば誤嚥のリスクも高くなるでしょうし、たった
一度の誤嚥が命取りになることもあるでしょう。
常用量依存の問題や、議論はあるとは言え永続的なに認知
機能の低下に繋がる可能性も否定出来ません…少なくとも
廃用などで間接的に認知症の発症や増悪のリスクはある
でしょう。

しかし、この手の記事を読んでいつも思うこと。「身体
抑制」等の記事でもそうなのですが、

「では、どうすれば良いと思いますか?」

という問いには一切答えていません。
高齢者に睡眠薬や安定剤を処方するのは何故ですか?
医師が好き好んで処方をしていると思っている
のでしょうか
。医師は、患者さん本人や家族の訴え
に応じて処方をしているに過ぎません。
確かに、不勉強な医師もいるでしょう。
しかし、では、この記事で取り上げられているBZ系の
睡眠薬抗不安薬を使わないとしたら、どのような選択肢
が残っているでしょうか。

ロゼレムやベルソムラ?
漢方の抑肝散や柴胡加竜骨牡蛎湯
確かに効く人はいます。プラセボでも何でも効けば
それでも良いです。しかし、多くの人の助けには
なりません。
「申し訳ないですが、薬は危ないので出しません」
心療内科にかかって下さい」
そう言うのが正解でしょうか。
確かに、それもひとつです。但し、心療内科の数を
考えれば受診が困難な地域があるのは想像に難くあり
ませんし、受診先が増えることは高齢の患者さんに
とってそれ程簡単なことでもありません。

では、BZ系以外の薬なら良いのでしょうか?
抗うつ薬、例えば四環系やSSRISNRI、NaSSAなど、
不安を和らげたり眠くなる副作用を利用して睡眠を
助けることは、確かに出来ます。
こういった薬はBZ系に比べ、確かに依存傾向はかなり
低いです。…しかし。
本当にこれらは安全なのでしょうか。
特に開始直後、転倒や誤嚥が起こることはよくありますし、
認知機能が落ちて色々な問題が起こることはBZ系と
大差がないのではないでしょうか。
抗精神病薬も同じです。
リスパダールジプレキサセロクエル…。
せん妄や一部の精神症状には抗精神病薬が合う場合も
ありますが、本当にBZ系より安心と言えるでしょうか。
パーキンソニズムや、耐糖能の悪化、循環器系の副作用、
併用注意・禁忌薬の問題などを考えると単純に良いと
言えないことも多々あります。
もっと言えばアリセプトやメマリーも…。

こうした問題提起はもちろん悪いことではありません。
大いに議論されるべきです。やめられる人は医療機関
に相談し、中止に向けたアドバイスを得て頂ければ
と思います。

ただ、代替案がなければ結局苦しむのは医療機関では
なく患者さんや介護している家族、という視点は持って
頂きたいと思います
。やめれば良いという単純な話
ではないからこそ、この問題が深いのです。
眠れなくてアルコールが始まる方も…珍しい話では
ないのです

私も基本的にはこの文章にあることは賛成ですので、
新たにBZ系の薬を処方することも滅多にありません。
他の方法で、どうしても症状が改善しない場合で、
患者さんの苦しみが大きく、様々な利中で心療内科
への通院が出来ない等のレアケースに限り処方をする
場合があります。その際も、もちろん効果や、中止
のタイミングは考えています。ただ、これらの薬で
良眠出来ること、不安を軽減出来ていることにより、
かろうじて一人暮らしが出来ていたり、自分や家族関係
が崩壊せずに済んでいる場合もあるのです。
BZ系の薬を止めることは、それよりも大切なことでしょうか。