Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

『在宅無限大』

年末年始に読んだ本のひとつでしたが、
なかなか興味深い内容でした。
著者の村上靖彦さんは、基礎精神病理学精神分析学博士
であり現在の大阪大学大学院人間科学研究科教授という方。
複数の訪問看護師さんへのインタビューが行われ、それを
村上さんが分析し、展開します。最初は少々理屈っぽい本
という印象を持ちましたが、読み進めると看護師さんの
無意識に発した言葉を村上さんが巧みに拾い上げていて、
さすが学者さんだなぁと思いました。

サブタイトルに、「訪問看護師がみた生と死」とあるように、
テーマのひとつは在宅での看取りです。普段在宅医をしている
私にとってはありふれた光景でもあるのですが、村上さんという
レンズを通して届く言葉は新鮮に感じました。

まずとても共感したのは冒頭の、一旦失われた自宅での看取り
に対する、「良い死に方」を「再発明」しつつある、という表現。
確かに介護保険成立後の自宅での看取りは、多くの医療者・介護者
が介入するという点で、過去の自宅での自然死とは性質が異なる
ように思います。村上さんはこれを「新たな在宅」と呼びます。
そして病院との対比の中で、患者さんと家族は失われていた
「普通」を取り戻す。訪問看護師はその触媒のような役割を
果たしていると言います。

その後は更に具体的に「快」、「願い」、「運命」と章を分け、
患者家族の心理と訪問看護師の役割を整理していきます。
これら全てを患者さんに合わせたオーダーメイドで作り上げて
いく。そこが病院の管理下では決して成し得ない、在宅の「無限大」
なのです。

快を作り出す。
希望を聞き出し家族と繋ぐ。
運命を受け入れる手助けをする。

各章を深く掘り下げて紹介しようとすると「ネタばれ」になって
しまいますので避けますが、なかなか深い。
私が行っている訪問診療でも、これらは間違いなく大事な点です。
しかしより積極的に力強く関われるのは看護師さんではないかと
私は思っています。

中にいる医療者でないからこそ描ける在宅医療。携わる全ての
方に、また訪問看護を受ける患者さんやご家族にも気付きの
ある内容ではないかと思います。