Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

介護サービス導入の不安や抵抗感について

癌で療養中の患者さんが訪問診療を希望する段階、つまり
病院に通うことが難しい時、その患者さんに残された時間
は2~3か月以内ということが多いです。そしてこの2~3
か月は、これまでの数年に比べてずっと症状の変化が大きい
です。私達は多くの患者さんを診ていてそれが分かっている
のでつい、患者さんが困る前にあれこれとサービスを整えて
しまいがちです。

もちろん、背景には「何かあってから」サービスを見直すの
では対応が後手にまわり、調整が慌ただしくなり、土日や
祝日等が重なり導入が遅れると患者さんや御家族が大変な
想いをするだろう、ということが一番大きいです。出来る
看護師さんやケアマネさんほど、患者さんの変化が想像出来
ますので先手を打ちプランを立てることだろうと思います。

ただ、あまりに手際が良いと患者さんや家族が戸惑うことも
多いです。特に直前まで介護保険を利用していなかった方は
サービスに抵抗を感じたり、不信感を持つことが多いように
思います。御本人もしっかりされている方の場合、手すりや
ポータブルが用意されることは尊厳を傷付けられたと感じ
やすく、また病状が悪化したことを認めるようなものなので
なかなか受け入れ難いとも仕方ないと言えるでしょう。

意外と多くのご家庭が、十分と考えられるサービスを受けて
いない
ことが度々指摘されており、これに関する調査も
行われています。サービスに対して不安や抵抗を感じる
御家族は、アンケートにより多少差がありますが50~
70%程度に上ると言われており、理由は上記病状に対する
心理的な理由のほか、

1.介護は家族がするという考え
2.サービスの仕組みや料金への不満
3.経済的な理由
4.他人に任せることへの抵抗感・気遣い
5.その他、サービスの理解(制度が難し過ぎる)、意思決定
能力

などが挙げられています。切羽詰まった状況であればそうも
言っていられないのですが、上記のように「前もって」
サービスを導入する場合には尚更不安感や不信感が先に
立ってしまいやすいと思います。

また、良いことではないですが一般的に患者さん御本人
が「家族の負担」を気にしてサービスの導入に積極的、
ということは少ないようです(もちろん例外はあり)。
特に男性の被介護者が奥さんに気を遣うケースは少なく、
また娘さん、お嫁さんに対しても同様のようです。金銭面
の負担はとても気にされる方が多いのと対照的
です。

サービスを提供する我々はまず、医療者側の思うベスト
なサービスと患者さんの気持ちには差がある
ことが当然
であることを前提とし、特に信頼関係が築けて不安が
軽減するまでは無理に勧めない方が良いかもしれません。
正しい情報を理解出来ていない場合もありますので、
息子さん、娘さん等に医師などから直接必要性を説明して
もらうことも大切だと思います。