Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

身体拘束をしない同意書

樋口直美さんのツイートで、都立松沢病院の身体拘束軽減の
取り組みが特集されていることを知りました。樋口さんも
取り上げておられた、「身体拘束をしない同意書」について
なるほどと思いました。同意書自体は事故の免罪符的なもの
になってしまう可能性もありますが、拘束のメリットと
デメリットを、しないとはどういう事なのかを患者さんの
家族が理解し、考えるうえでは重要な役割になるかもしれません

「本人の尊厳を守る」ために、失うものがあります。
それは「安全」であり、また時に「効率的で効果的な治療」
であるかもしれません。

しかし、「やっぱりな…」というのが、ここ。

家族へ「当院は縛りません」
「そのために転倒のリスクがあります」と説明し
納得してから入院してもらうようにした

「納得してから入院」は立派に聞こえますが、裏を返せば
「納得しなければ当院には入院出来ません」
「入院には同意書が必要です」
という意味を暗に含んでいるということです。
例えば転倒を繰り返し、もう転ぶことがほぼ明らかな高齢者
であっても、「尊厳」の名のもとに「注意して経過観察」
されてしまうのです。

すると、拘束の必要な治療の場合松沢には入院出来ず、
周囲の病院に入院することになります。
結果、都立松沢の身体拘束は減りますが、
他の病院では増えることにもなり兼ねません。

大袈裟に聞こえるかもしれませんが、以前私はホスピス
勤務時代、都内の「当院は入院が14日までです。ご理解ある
方しか御入院出来ません」というホスピスから、困った
患者さんが何人もいらっしゃった経験があります。
ホスピスは一般的に在院日数が少ない方が優れたケアを
行っていると評価されることがありますが、
短期入院に納得した患者さんしか受け入れなければ
在院日数が短くなるのは当たり前
です。
「同意出来なければ他へ」
とは、そういうことなのです。

もちろん、都立松沢の取り組みの全てを否定しているわけでは
ありません。むしろ共感、同意出来るところが多く職員の意識
の改革など参考に出来ることもたくさんあると思いますし、
少しでも少なくしよう、短くしようという努力は必要です。
実際に拘束されず、辛い想いをせずに済んだ患者さんも多い
ことでしょう。
しかし知らずに患者さんよりも病院の理念・目標達成が
上に来るような本末転倒な事態になっていないか、
実質的に医療者の信念と異なる考えの患者さんを拒絶していないか
常に意識として持つ必要がある
と私は思っています。