ドキュメンタリーに登場する「大門未知子」
現実の医療界に、大門未知子(ドクターX)やブラックジャック
はいません。敢えて言うまでもなく、「失敗しない医者」など
漫画やドラマにしか出て来ないことは子供でも知っています。
しかし、「ノンフィクション」「ドキュメンタリー」を謳う
テレビ番組も、「成功例」ばかりを繋ぎ合わせれば、
大門未知子が現れてしまいます。
私達人間の多くは、「善」でいたいという気持ちを持っています。
そして番組を作る時に、失望と暗い気持ちになる番組を作ろうと
する人はいませんし、ことに医療・介護であれば希望や可能性を
感じられる番組にしたいと思うことでしょう。
「新しい治療」を紹介する番組で、失敗例や治療には成功した
けれども認知症が進み家に帰れなくなった高齢者は出て来ません。
これは悪いことではありません。しかし、テレビではこの無意識
の、あるいは意識しての取材、編集が、「こんな素晴らしい医師
がいる」「美しい介護がある」と安易にやってしまう傾向
があります。
以前私は、『「なんとめでたいご臨終」で私が感じた違和感』
というタイトルでブログの記事を書きました。
まさにこの違和感は、在宅医療の『成功例』だけを寄せ集めた
本になっているところから来ました。しかし、小笠原文雄先生
は本当に『失敗しない医者』なのでしょうか?
医療系ドラマはもちろん、このようなノンフィクション番組も、
多くの医療者・介護者は「こんなの、ないない(笑)」という
感覚で観ていると思います。撮影出来ない、放送出来ない内容
がカットされ、美しい場面だけが強調された世界は、時に医療
や介護に対する過度な期待を持たせてしまうかもしれません。
過度で現実不可能な要求を医療・介護界に求めている人が
いることは、この弊害のひとつだと思います。例えば、身体
拘束をしない取り組みをしている病院が放送されたとします。
しかし、条件が揃い「無茶」が出来る病院や施設もあるのです。
それに影で転倒などの事故や職員が疲弊し病んで退職するような
ことがあっても、放送されることはないでしょう。視聴者は
このような番組を観た後に身体拘束を行う病院の現状を見て
どう思うでしょうか。「きっとこれは三流の病院である」と
思うかもしれません。
医療者、介護者が入居者・高齢者を拘束することを何とも
思わず、状況に甘んじ改善すようとする気持ちがないなら、
それは「三流」と呼ばれて仕方ないかもしれません。
しかし、現実には出来る努力をしている病院・施設が殆ど
だと思います。百歩譲って現実の医療界に大門未知子の
ようなスーパースターがいたとしても、大門未知子でしか
出来ない医療が標準だと思うことはあまり良いことではないと
思うのです。