Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

『「残された時間」を告げるとき』

心から尊敬している臨床医は?と聞かれ真っ先に浮かぶ先生の
ひとり、西 智弘先生の本を紹介したいと思います。
特に研修医やレジデントの先生、また医師だけでなく患者さん
と家族、またそれ以外の方が病や死について学ぶのにとても
良い本です。

「残された時間」を告げるとき

「残された時間」を告げるとき

医師として、治せない疾患であることを患者さんに伝え、
時には残された時間を告げるという役割は最大の難関の
ひとつではないかと思います。伝える前から患者さんや
家族の動揺が浮かびます。この本ではとてもリアルな、
実際の医療現場でなされている告知のやり取りが出て
来ます。漫画を採用したのはとても良い試みだと思いました。
内容が内容なので、患者さんを傷付けないことは無理ですが
医師として伝え方のスキルを磨くことは大切です。
告知に慣れている、という先生も本の中で「なるほど」と
思うことがきっとあると思います。同じ内容でも、希望を
持たせつつ大切なことを伝えることが出来る言い方がある
のです。

しかしこの本は同時に、患者さんや家族にとって、
医師がこの『最も悪い知らせ』を患者さんに告げるべきか、
どのように伝えるかを悩み苦しんでいること、
そして自分なら余命告知を望むのか、医師とどう向き合って
いくか等を考える非常に良い機会になると思います。

本を読めば良く分かると思いますが、実際告知はとても難しい
です。より良い人生を送って頂こうと良かれと思って伝えれば
「はっきり言うなんてひどい」「デリカシーがない」と言われ、
伝えなければ治療が出来なくなった時に「知っていたのなら
教えて欲しかった」「突然言うなんて」となります。

また「医師の態度が冷たかった」としばしばお聞きしますが、
淡々と告げるのが精一杯だったのではないかとも思います。
また、曖昧に告げると後で患者さんがよく分かっておられない
こともしばしば経験しますので、どうしても「はっきり」
言うようになってしまいます。

厳しいかもしれませんが、このような大事な話し合いを、
医師に全て任せてしまっているのも問題があると私は思い
ます。御自分の人生ですから、きちんと伝えて欲しいのか、
そうではないのか。そしてその事実が変えられないのであれば
どう生きるかを変えていくしかないのです。

本をちょっとだけ立ち読みしたい方は、西先生のブログで
漫画部分を公開していますので是非お読み下さい。

tonishi0610.blogspot.jp