Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

『ニルスの国の認知症ケア』

ニルスの国の認知症ケア―医療から暮らしに転換したスウェーデン

ニルスの国の認知症ケア―医療から暮らしに転換したスウェーデン

はじめにお断りしておきますが、2013年出版の本です。
内容に感銘を受けたので紹介させて頂きます。

母親を自宅で看取る経験をした著者の藤原さんが、
スウェーデンでは寝たきりの高齢者や認知症の人がいない
理由を調べるために何度も渡航し詳しい取材を行いました。
この本はその記録です。

一言で言えば、それはパーソン・センタード・ケアという
ことになります。ですが、個の尊重は徹底しています
また、それを実行に移すための具体的な考え方、スキル、
細部の心遣いは学ぶところが多々あると思います。

いくつか印象に残った箇所を紹介します。まずは医療面ですが
認知症の診断がかなり慎重だと思いました。一過性の心因反応
等の誤診を除外にとても慎重であり、診断に六カ月を費やす
というのは驚きました。「それでは医療の介入が送れるのでは」
という意見もあると思いますが、ア〇セプトを処方する、くらい
の介入なら、誤診や誤った治療のリスクを考えれば軽微だと
思います。認知症が明らかなら臨機応変にすれば良いのです。

また、認知症の患者さんを介護度という概念で区分けする考え
がないことも国民性なのかもしれませんが面白いなと思いました。
確かに日本はランク付けが好きで、すぐ日常生活自立度等を用い
ます。時間がない中で患者さんの様子を想像するには便利な面
もあるかもしれませんが、患者さんではなく「病気」をみる
視点だと思いました。

制度としては「アンダーナース」という、介護職と看護師の
中間的な存在のスタッフがいることに興味を持ちました。
また看護師の力は大きく、医師に任され自律した存在に
なっています
。日本は全てにおいて医師が中心で、下手を
すると患者さんの生活を知りもしない医師が「意見書」を
書くことになります。医師も余計な仕事が増えますし、
看護師・介護士など現場のニーズが満たされにくい無駄の
多い仕組みと言えます。仕組みを合理化するには国民の
意識の変化も必要ではないかと思いました。

実はスウェーデンでも認知症の患者さんを精神科病院に
「閉じ込め」、抗精神病薬を大量に処方し、拘束を行って
いた時代があったそうです。しかし詳細は本に譲りますが
80年代より改革が行われました。日本も見習うことは
出来ないでしょうか。

土壌が違う、認知症の方の数が違う、法が違う等色々ある
とは思います。特に日本の介護士の方々の苦労は相当な
もので、改革などする余裕はないように思います。しかし
本の最後には神奈川県の小規模多機能居宅介護サービス
の取り組みが紹介されていました。これを読むと、最終的
には人、御本人を取り囲む医療者・介護者・家族の知識、
考え方、お互いを尊重し思いやる気持ち等が全てに勝り
大切なのではないかと感じます
。考え方次第で出来る
ことは間違いなくたくさんあります。

他にもこの本は看取りの話題なども取り上げられ、とても
興味深いです。