Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

「訪問診療をせずに往診だけお願い出来ますか?」

訪問診療をやっていると、表題のような質問を受けることが
時々あります。そもそも訪問診療というものが分かっていない
方が大部分だと思いますので少し説明をします。

在宅療養支援診療所(在支診)が制定され、今の形の訪問診療が
始まったのが2006年です。訪問診療は10年以上の歴史があります
が、利用されるのは一部の患者さんだけなので、多くの方に
とっては未だに馴染みのない医療なのだと思います

患者さんからは「先生は訪問看護をやっているのですか」
と聞かれることがよくあります。私がやっているのは訪問診療
なのですが、患者さんにとっては看護と診療の区別すらついて
いないのでしょう。当然だと思ってはいますが。

実際、医師が患者さんの家に行き診察をすれば「訪問診療」には
違いないのですが、私達が「訪問診療」と言うと国が定めた
サービスの「仕組み」
を指すことが多いです。訪問診療は、
1.予め立てた計画に従い定期的な訪問をすること
2.患者さんの求めに従い、いつでも対応すること
という、分かりやすく言えばこの二つを組み合わせたものです。

参考までに、「24時間対応」というのも曖昧な言葉です。実際、
クリニックは電話に出れば「対応」したことになるので、往診
の義務はないのです。在支診の4割が「1年間の時間外往診ゼロ」
というのは数年前のデータですがルールが変わっていない以上、
状況は大して変わらないと思います。臨時対応を期待している
方は、フットワーク軽く対応して貰えるか評判も聞いてから
決められた方が良いと思います。

訪問診療は高いと言われます。医療保険1割の方が内科の外来を
受診し、窓口で支払う診察料は平均で1000円くらいです。一方
訪問診療では月計算で最低でも6500円くらいかかります
大雑把に言えば、6~7倍の診療費がかかるのです。
(ちなみにこの8月から訪問診療にかかる診察料の上限が変わり、
1割の方でも最高月14000円までかかるようになりました)。

この時の診察料の大部分を占めるのが、「管理料」です。正確
には『在宅時医学総合管理料』と言います。これはクリニック
が24時間対応出来る体制を整え、その連絡先等を文書で渡して
いる場合に算定出来るとありますので、平たく言えば24時間
対応のための料金です。細かい条件で変わりますが、これが
だいたい4000~5000円になります。

ちなみに平成28年4月より月1回の訪問診療が可能になって
おり、この場合1割の方であれば月3500円くらいから訪問
診療を受けられる可能性があります。但しこれは病状の
安定した方に限られ、その判断は医師に委ねられています。
患者さんの希望では決められないということです。今現在
月1回の訪問診療を実際に行っているクリニックは少ない
と思います。

実際、訪問診療の患者さんは病状が重いのが普通ですし、往復
も含め1件辺り少なくとも30分以上かかります。私は1人の患者
さんに移動時間を含め60分とっています。この時間があれば
外来の患者さんを6~7人は診れます。ですので訪問診療の単価
が高いのはそれだけの手間と時間がかかるという事
なのです。
1人に1時間かけて、外来一人分の収入であればクリニックが
存続出来るはずがありません。

さて、タイトルの質問、「訪問診療をせずに往診だけ」受ける
ことが可能か、という質問です。結論から言うと不可能では
ありませんが難しい
と思います。理由をまとめます。

1.そもそもクリニックがやっていない時間は事務員がいない
のでカルテを作る、保険証を登録する等事務作業が煩雑。

2.医師が普段の体調を知らない患者さんを緊急時に診察する
場合、その場で持病や病歴・既往症や内服薬・普段の体調等
を確認しなければならない。また自宅で出来る検査は少なく
病状を正確に判断しにくい。これは誤診の可能性が増すこと
で、逆に言うと患者さんにとっても不利益。

3.クリニックとしては、臨時の対応のために上記「管理料」
を支払っている患者さんと同じサービスを、支払っていない
患者さんに提供することになる。また先述の外来一人分の料金
しか受け取れない(正確に言うと少しだけ高い)ため、
ボランティアの意味合いが強くなる。

もちろん様々なケースがあり患者さんも困っていると思います
ので、私のクリニックでは開業以来時間があれば往診も受けて
来ました。ただ、最近は本業の訪問診療ですら受けられない
くらいのスケジュールですので、時間があるという事は殆ど
ないのが現実です。他のクリニックさんも同じような状況
ではないかと思います。