Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

ケトン食ががんを消す

更新が空いてしまいました。
今日は2016年に出版された、こんな本の話題を。

ケトン食ががんを消す (光文社新書)

ケトン食ががんを消す (光文社新書)

『がんが消えた系』の本は大半インチキだと思いますが
この本は以下の理由から信頼に値すると納得出来ました
ので紹介させて頂くことにしました。

1.筆者は多摩南地域病院の現役医師である
→密室性の高いクリニックと違い、多くの職員の目がある
2.学会発表もされている
3.うまくいかなかった症例数も公開している
4.他の治療を否定したり、高価な食品を勧めたりしていない

糖質制限を少し実行するだけで体重減少や血糖コントロール
には著しい効果があるのが分かりますが、興味を持って色々
な本を読んでいるとこれをがん治療に利用出来ないか、と
考える方が多いようです。シンプルな理由ですが、がんは
ケトン体を殆ど利用出来ず、その分糖を物凄い勢いで取り
込み、エネルギーとして利用しているからです
(他にも
色々と理由があるようなのですが)。

まず、こんな本があります。

まんがケトン体入門 糖質制限をするとなぜ健康になるのか

まんがケトン体入門 糖質制限をするとなぜ健康になるのか

賛否ある内容を事実のように書いてある箇所があり少し
気にならないでもないですが、糖質制限を理解するには
良い漫画だと思います。さて、この中で私が非常に興味
を持ったのは最後に出てくる『コータ君』のエピソード
です。2016年に24時間テレビに出演した子らしいですが
彼は14歳で『脱分化型、脂肪肉腫』を発症してしまいます。
肺転移が明らかとなった時点でケトン食(高度な糖質
制限食)に切り替えます。結果、肺転移巣は消え、
今でも元気に過ごしています(ここ最近Facebookに
1年ぶりの画像検査にも異常がなかったと書いてあり
ました)。※コータ君は同じ食事療法をしているという
だけで、古川先生とは直接関係ありません。

この男の子のことを知っていましたので、この本の内容
も有り得るかもしれないな、と思えたのかもしれません。

さて、本書の内容ですが、なんと18人のがんステージⅣ
の患者さんにケトン食治療を行い、5人が完全寛解(CR)、
部分奏功(PR)が2人、進行制御(SD)が8人、増悪
は3人だけ
でした。

ただ、著者の古川医師は、通常療法(手術、抗がん剤)を
併用しています
。「な~んだ」という声が聞こえて来そう
ですが、ステージⅣが抗がん剤のみでここまで好成績を残す
ことが出来るでしょうか(本には実際の患者さんの経過が
書かれています。特に抗がん剤が効きやすい癌ばかりを
集めている訳でもありません)。

ここで言えることは、ケトン食は他の治療に悪影響を及ぼす
方法ではないこと。高額な『何か』に大金を払う必要もない
こと。体系的な栄養学を学び患者さんや家族も積極的に病気に
関わって行くことが出来る、等良い材料が多いこと。
いくらかでもプラスになる可能性はありそうだと思いました。
そしてゲルソン療法等と比べればずっと楽に実行出来ること
も魅力ではないかと思います。

もちろん、この患者さんたちも、経過が良好とは言えたかだか
20人弱で数か月~1年程度の経過を追っているだけですし、
歴史が始まったばかりの治療法なので古川先生が現段階で
「正しい」と思っている理論も本当に全て良いものかどうかも
分からないと思います。

しかし、あらゆる疾患に対して、現代医学はしっかりした栄養学的な
アプローチ法を持っていないのは確かです。がんに対する栄養学として
確立したものはありません。それならば納得出来る栄養法を取り入れる
のは決して悪いことではないように思います

最後に…

必ずきちんと勉強するか、詳しい先生に相談して始めて
下さい。糖尿病や、肝臓・腎臓の機能が落ちている方は、
治療がリスクになる事も有り得ます。「安易に考える」
ことは何事においても賢いことではありません。