Not doing but being

主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

BPSDに対する抗精神病薬の使用と中止(1)

認知症患者さんの暴言・暴力・介護抵抗・徘徊等周辺症状
と言いますが、周辺症状をBehavioral and Psychological
Symptoms of Dementiaの頭文字をとってBPSDと呼びます。
介護する側にとってしばしば大きな悩みをもたらし、
介護の継続が困難となる主たる原因のひとつです。

BPSDには、抗精神病薬の効果が高く、古くから用いられて
来ました。このブログでも『「易怒」に使う薬』という
エントリーで薬物の効果について書かせて頂きました。
何故抗精神病薬が良く使われるのか、等についても書いて
あります。

kotaro-kanwa.hateblo.jp

さて、ここ最近抗精神病薬の副作用が繰り返し警告される
ようになりました。例えば2016年には、初めて抗精神病薬
を投与された高齢者は、全く投与されていない人に比べて
死亡率が2倍以上になる
と順天堂大学の研究グループが
報告されたことは記憶に新しいと思います。同様の研究や
報告は以前から海外でも報告されておりアメリカでも使用
を控えるよう警告されています。

ただ、もちろん抗精神病薬と一言で言っても、その種類や
量によって話は随分変わります
。更に、「新たに抗精神病
薬が必要になる」患者さんは、そもそも死亡のリスクが
高いのではないか、という疑問もあります
。身体の状態が
悪いとBPSDがひどくなる、ということも良く経験するから
です。正確に論じるならば、「新規に抗精神病薬が必要な
くらいのBPSDがありながら、使用しなかったグループ」と
比較すべきではないかと思います

ちなみに同じ研究では、「すでに抗精神病薬を内服している」
4800人余りと、全く投与されていない4800人余りを比較して
いて、両群の死亡率は有意ではなかった事も付け加えておき
ます。あくまで死亡率が高かったのは新規に開始した
85人の患者さんについてです。

そして私はいつも思うのですが、「使用を控えるように」と
警鐘を鳴らす人達は「薬剤を使用しなかった場合のリスク」
を絶対に述べません
。抗精神病薬など使用しないで済むなら
誰だって使用したくないに決まっています。しかしその結果
介護者である家族が不眠や心労から体調を崩すこと、介護の
継続が難しくなってしまうこと、徘徊、デイサービスやホーム
から受け入れを断られてしまうこと、他の利用者さんに
怖がられたり傷付けてしまう可能性、入浴・陰部洗浄など
必要なケアが十分に受けられない可能性。そして何より、
BPSDを放置される患者さん自身の苦しみや尊厳。
実は患者さんも病的な苛立ちや不安に苦しめられているのです

使用を慎重に考えるのは当然です。非薬物的なアプローチ
も有効である事が多く、介護者に余裕があるのであれば
介護の方法を工夫する事もひとつです。また内服薬がBPSDを
悪化させる事も多く
、見直す必要があります。これらを
省略し、抗精神病薬に頼るならば、それは安易な使用と
言われても当然だと思います。

しかし、必要な時は早期に使用し、可能な限り副作用に
気を付け、可能な限り早期に減量する
という考えを
私ならば提唱したいと思います。次回は今日の続き
一度開始した抗精神病薬の減量/中止についてお話する
予定です。