Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

あとどれくらい生きられますか?

日経メディカルに昨日、西先生の『「あとどれくらい生きられ
ますか」への答え方』という記事が出ていました。

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/nishi/201706/551414.html

実は私は、患者さんから直接「あとどれくらい生きられるか」
と質問された事はあまりありません。訪問診療では担当する
患者さんの容態があまり良くないですし、高齢な方が多いの
も理由のひとつではないかと思っていますが、ホスピス時代
にさかのぼっても、この質問を受けたことはとても少ない
です。

患者さんが医師に直接「余命」を聞くのは、かなり勇気がいる
と思います。シビアな数字が返って来る可能性があるわけです
から。看護師さんやホスピスのチャプレンに聞く時は、傾聴
して貰いたい意味合いが強いのと対照的だと思っています。
病気と向き合いたい、残された時間を思うように過ごしたい
という方が多いのではないか
と思います。

そう言えば私も数少ない、この質問を受けた記憶があるのは
研修医時代が多かったように思います。指導医には聞きにく
かったのか、敢えて答えられそうにない研修医を選んだのか、
正確には分かりませんが…。

私ならこの段階では「何かやっておきたい事があるんですか?」
等の質問をしながら、アンテナを張りめぐらし、患者さんの
質問の意図するところを探ります。伝える必要がある、大丈夫
と思えば、あくまで参考の期間として数字を告げる場合も
あります。しかし、その時も「長い方と短い方では数倍の開き
があります」等の言葉を続けることが多いです。

結局医師には、「中央値」の予想しか出来ません。不正確な
長さを敢えて伝えるよりも、「いつ何があっても後悔ない
ように」というメッセージを伝える事の方が大切ではないか
と思います
。全員の患者さんにとって最善の答えなど
ない、というのが本当のところです。

このテーマでは、私は3月にこのブログでこんな記事を書いて
いました。

kotaro-kanwa.hateblo.jp

患者さんが実際の平均生存期間よりもどれだけ楽観的に考えて
おられるか、また告知した期間を覚えていない方が多いこと、
そして医師との関係悪化や不安や悲観などが増えることは、
長期的にはない事などが書いてあります。

しかし、西先生も書いておられるように伝えるか伝えないか
よりも伝え方やその後の態度、「私はあなたを見捨てること
はありませんよ」という意思を伝えていく事の方がずっと
大切である
と私は思っています。