Not doing but being

主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

がん治療の「ギア・チェンジ」は過去の言葉か

我が国に「Palliative Care」の概念が入って来た時に、
「ホスピス」という「建物」や、ホスピスに
入院する時期である「終末期」という点が強調され
過ぎてしまいました
。そこで、「Palliative Care」
は何もホスピスという場に限ったことではない、
また終末期に限ったことではない、という「軌道修正」
が試みられて来ました。それまで使われていた、
『ターミナルケア』という言葉は使われなくなり、
『緩和ケア』という言葉に置き換えられました。
ホスピスという言葉はまだ使われていますが、今では
『緩和ケア病棟』という言葉の方がより使われています。

そして同時に、緩和ケアは「がんという診断がついた時」
から行うべきだ、と言われるようになりました。自覚症状
がない段階でも、病状悪化や死を予期した不安だけでなく、
金銭面の問題や仕事の問題など患者さんは様々な不安が
あります。もちろん全ての患者さんが助けを必要と感じる
訳ではないにしても、助けを必要としている方に助けを
提供出来る準備があるなら、確かにそれは素晴らしい
ことだとは思います。

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上記は、がん治療と緩和ケアの関係を示しています。
最初にお話した、治療が終了した終末期の患者さんにだけ
「Palliative Care」が行われる、という考え
は図の一番
上です。治療が終了して緩和ケアに移行することは、
『ギア・チェンジ』と呼ばれ、患者さんにとってはそれまで
治る、良くなると信じて受けていた治療から、苦痛だけ
とる治療へと「移行する」ことになりますから、この時に
受ける精神的な苦痛・喪失感・絶望感はとても大きなもの
になります
。そして、それは患者さんの心理的な変化
だけでなく、病院や主治医の変更といった環境の変化も多くは
この時一緒に経験することになります。

これに対して、図の真ん中は『シームレスな(垣根のない)
ケア』と書いてありますが、治療を行いながら緩和ケアが
平行して始まり、次第に緩和のウェイトが大きくなって
来る
ことを示すモデルになっています。一番下はパラレル
ケアという概念です。治療開始から一貫して緩和ケアが
行われることを表していますが、二番目、三番目は緩和
ケアの比率の書き方が異なるだけで、敢えて区別をする
必要があるのか、という気もします。それはともかく、
後者ではあたかも患者さんはギアチェンジなど
経験しないかのような錯覚を与えてしまうのでは
ないでしょうか

しかし、現実問題として治癒的治療はいつか終わり、
ホスピス(緩和ケア病棟)は、がんの治療を終えた患者さん
しか入ることが出来ません。
緩和ケアを受けながら治療が
したい、という患者さんがいてもホスピスでは受け入れが
出来ないのです。それどころか、ホスピス外来で「もうすぐ
抗がん剤治療が出来なくなりそうなので、治療が終了
したらホスピスに入れて下さい」という「登録」すら
断られてしまう事が多いのです。つまり残念ながら
患者さんはどこかでこの「治療の中止→緩和ケア」
という一方通行の道を進まなければ、つまり
「ギア・チェンジ」をしなければホスピスには入ること
が出来ないのです

先程のシームレスケア・パラレルケアの図を見て思うことは、
理想がともかく現実にはギア・チェンジを経験している
患者さんをを支えるという視点が欠けてはいないかという
ことです。初期よりも本当はこのギア・チェンジこそ多くの助け
が必要な時なのではないでしょうか。まるでギア・チェンジなど
存在しないかのように話題にしない現状にはいささか疑問が
あります。

そして、今や致命的な副作用の少ない抗がん剤(分子
標的薬を含む)が多く開発され、ますますギリギリの
状態まで抗がん剤を受ける方が増えて来ました。
抗がん剤が終了になってから亡くなるまでが1~2カ月
という方も全くめずらしくありません。そんな中で、
がん治療を継続している限りホスピスに「登録」すら
出来ないというのはどういう事でしょうか

今、あるホスピスは登録までの待ちが4か月以上になって
いると言います。4か月はギリギリまで治療をする患者さん
が待てる時間でしょうか

早期の緩和も良いですが、緩和ケアに関わる医療者には
限りがあります。早期に時間と手間をかけあまり
本当に助けが必要なこの時期の支えが疎かになるなら、
それは本末転倒です。