Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

ブプレノルフィン(レペタン)

本日の内容は医療者向けになります。
長尾和宏先生の町医者日記の記事から。

blog.drnagao.com

簡単に内容をまとめると、ブプレノルフィンには色々
な長所がありもっと見直されて良いのではないか
という内容。

ブプレノルフィンはオピオイドのパーシャルアゴニスト
(部分作動薬)であり、1996年より除痛ラダーの第3段階
(強オピオイド)に分類されながら、麻薬処方箋が不要
という変な薬剤
です。古くはレペタン(座薬・注射)と
して各種がん、術後や心筋梗塞の鎮痛に用いられており、
2011年にはノルスパンテープが慢性疼痛の治療薬として
再登場したのは記憶に新しいところだと思います。

慢性疼痛では、使用が長期になることから性腺機能低下
や免疫抑制作用が少ないブプレノルフィンを使う意義は
大きいものと思われます。しかし、癌性疼痛に関しては
これだけ優れたオピオイドが揃った今、敢えてレペタン
を使う場面があるのだろうか
、というのが私の意見です。

ブプレノルフィンは1990年代までは『天井効果』があり、
ある用量以上を用いても効果が頭打ちになると考えられて
来ました。しかし、最近の知見では鎮痛効果に天井効果
はないというのが定説になっています。部分作動薬という
特性を考えると、やはり天井効果はあるのではないか、
とも思いますが、あったとしても少なくともこれまで
考えられて来た限界(3~5mg/day)を遥かに上回るようです。
強いて言えば、麻薬の取り扱いが困難な時に、レペタン
を使用するケースが、もしかしたら有り得るかもしれません。
(レペタンは麻薬及び向精神薬取締法における第二種向精神薬
として取り扱われています)。

ところが、少し気になる記事もあります。

knight1112jp.at.webry.info

フェンタニルとレペタンを併用したら、鎮痛効果が高まって
問題なかったよ、という主旨です。

しかし、一言で言えば効果と安全性にエビデンスがなく
止めて頂きたい
と思います。第一、併用のメリットが
ありません。患者さんを使ってこんな実験をせずとも、
フェンタニルを使っているなら、フェンタニル
を増やせば良いではありませんか
。「ほら、効果が
あったよ」と言いますが、効果がなかったり副作用
が出たらどうするつもりだったのでしょう。

オピオイドの併用は未知の部分が大きく、まして部分
作動薬であれば尚更です。レペタンは受容体との結合
力がとても強く、添付文書上でも高用量において
モルヒネの作用に拮抗するとの報告があると書かれて
いますし、注意すべきは単に痛みが増強してしまう、
という理由だけでなく退薬症状という大きな問題を
引き起こす可能性が少なからずあります。
退薬症状は併用時もそうですがモルヒネ(フェンタニル、
オキシコンチン)→レペタンでも当然起こるので注意が
必要です。

また、呼吸抑制は常用量では稀、という記載をよく
見掛けますが、私は数少ない使用経験で重篤な呼吸抑制
を経験しており、半減期が長く拮抗がとても難しい
薬剤なので怖い想いをしました。がん末期の患者
さんでは全身状態が不安定なので過信しない方が
良いと思います

結論として、ブプレノルフィンの見直しは反対
しませんが、安易に考えることは危険で、
基本的にはきちんとモルヒネを使いこなせる先生が
使用すべきだと思います(但し、そうなると上述した
ようにレペタンが良い理由は少ないのではないかと
思いますが)。

また、オピオイドの併用は使用量の把握が煩雑に
なり、お互いの長所を打ち消すことにもなること、
エビデンスが殆どないことから出来る限り避ける
べきだと思います