Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

モルヒネを13年間飲み続けた患者さん

またもやTwitterからの話題になりますが、こんなニュース
を見掛けました。毎日新聞の医療プレミアから、
『緩和ケアの誤解 医療用麻薬は怖くない!』。少し前の
記事でした。

https://mainichi.jp/premier/health/articles/20151202/med/00m/010/016000c

私が大学を辞めてホスピスのある一般病院で働き始めた時、
1日1000mgという大量のモルヒネを飲み続けている患者さん
に出会いました。例えばMSコンチンという薬の一般的な
初期量が1回10mgを1日2回ですので、相当な量です。
実はこの患者さんはがんの患者さんではありませんでした。
帯状疱疹後の神経痛の患者さんです。普段は他の医師に
かかっていましたが、その先生がお休みの日や待ち時間が
長くて辛い時は私のところにいらっしゃいました。

私が初めに担当した時で既に11年、私が都立病院の研修に
出る約2年半の間時々担当させて頂きました。これだけ
たくさんのモルヒネを飲んでいても、副作用と言えるのは
便秘のみ、さすがに最後の方では物忘れが出ていましたが
90歳近い方でしたので、モルヒネが関係あるかどうかは
何とも言えません(違うと思います)。

13年以上内服されていた事までは確認出来ていますが、
私が帰って来た時は見掛けませんでした。その後どう
されたか、当時は紙カルテでしたし、私も確認して
いません。

私がこの患者さんに教えて頂いたのは、モルヒネは使い方
が正しければ安全だ
、ということそして帯状疱疹後の
神経痛の痛みは時としてとても難治となる、という事
でした(この患者さんは他にもリボトリールやトリプタ
ノールを内服していました。当時はリリカやガバペンチン
はありませんでした)。

私は今でも、医療用麻薬が使いたくないという患者さん
にはこの方の話をさせて頂きます。もちろん、流石に
13年間ではないですが、年単位の内服をされていた
方なら他にも何人もおられます。

私は医療用麻薬を完全に安全です、と言い切ってしまうのは
抵抗があります。特に全身状態の悪い患者さんではせん妄
の原因にもなりますし、眠気も場合によっては食事の機会
を減らしたり廃用の一因になるかもしれません。吐き気も
時々患者さんを弱らせてしまう場合があります。
厳密な意味で依存は絶対にないとも言えません。
(今確立された方法では滅多に依存が問題になる事は
なく、臨床的にはデパスよりも問題にならないと思いますが)。

以前ブログで書きましたが、医療用麻薬はたちまち痛み
を消し去り副作用のない魔法の薬ではありません

しかし普通は明らかにデメリットよりもメリットが多く、
多くの患者さんが思っておられるよりはずっと安全だとは
思います。ロキソニンのような痛み止めの方が、長く飲む
場合にはずっと危険だ
とも思いますし、二度と止められない
というのも誤解です
(結果的に一生必要である可能性は
高いですが、必要なくなって止めた方もいらっしゃいます)。

患者さんの大きな悩みの一つである強い痛みがかなり
軽減することも少なくありません。医療用麻薬の副作用
を軽視することも、過度に恐れることも賢明ではありません。
薬をうまく使い、良い時間を過ごせる方が増えて欲しいです。