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主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

がん末期の呼吸困難治療まとめ

本日のエントリーは医療者向けになります。
2016年に緩和医療学会の「がん患者の呼吸器症状
の緩和に関するガイドライン」が改訂されています
ので、大きな変更点を中心に、有名な文献はリンク
を貼っておきます。

がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン 2016年版

がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン 2016年版

  • 作者: 特定非営利活動法人日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン委員会
  • 出版社/メーカー: 金原出版
  • 発売日: 2016/06/22
  • メディア: 単行本
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進行がんとは言え出来る限り原因に基づいた治療が
行われるべきなのは言うまでもありません
が、全身状態
が悪化し予後が極めて悪いと考えられる場合、いたずら
に治療を行う事がしばしば新たな苦痛を増やすことに繋がります。
この段階では対症療法として、低酸素があれば酸素、
これにMST(モルヒネ+ステロイド+トランキライザー)
を加える治療が一般的に行われて来ました。

酸素についての文献をまとめると

低酸素なしでは空気/酸素投与は同等
1.Bruera E Palliat Med 2003;17: 659-663
www.ncbi.nlm.nih.gov


低酸素ありでは効果に有意差あり
2.Bruera E Lancet 1993; 342:13-14
www.ncbi.nlm.nih.gov


鼻腔からの空気/酸素投与で自覚症状がかなり改善する患者がいる
3.Booth S Am J Resp Critical Care Med 1996;153:1515-1518
www.ncbi.nlm.nih.gov


低酸素がなければ酸素と空気(プラセボ)は同等の効果
ですが、いずれもかなり呼吸苦を和らげる可能性はあります
空気の流れが自覚的な呼吸困難を緩和させるのでしょうか?

続いてオピオイドの話題ですが、モルヒネの使用は、
行うことが「弱い推奨」から「強い推奨」に、オキシ
コドンは「行わない弱い推奨」から「行う弱い推奨」に
変わりました
。腎機能不良例などではオキシコドンも
呼吸困難の選択肢として考慮し得るということです。
尚、フェンタニルは今回のガイドラインでも「行わない
弱い推奨」のままで、経験的にもあまり効果がないと
言えます。

呼吸困難に対するモルヒネの効果、最も有名な文献の
ひとつです。全文ダウンロード可能
Ann Intern Med 119 (9): 906-7, 1993
Subcutaneous Morphine for Dyspnea in Cancer Patients | Annals of Internal Medicine | American College of Physicians


ちなみに一時流行った、モルヒネ・フェンタニル・
フロセミドの吸入、咳嗽に対するリドカインの吸入は
現在全て非推奨になっています。

トランキライザーはBZ系の抗不安薬を指しますが、
単独での使用は推奨されていません。Naviganteらは
予後1週間程度と考えられる重症呼吸困難患者101名を
対照とした研究でモルヒネ+ミダゾラム群でモルヒネ
単独よりも有意に呼吸困難を改善させたと発表して
います
。但し、4時間毎に5mgと殆ど鎮静になりそうな
ですが。
J Pain Symptom Manage. 2006 Jan;31(1):38-47.
www.ncbi.nlm.nih.gov


ステロイドは、病態を問わず使用することは「行わない
弱い推奨」に変更されています
。一部有効性を示唆する
文献があるものの、研究デザインの質が良くないそう。
がん性リンパ管症、上大静脈症候群、主要気道閉塞(MAO)
等では有効性が高いと考えられ、「行う、弱い推奨」となって
います。

ただ、海外はリンデロンであれば16mg等の大量のステ
ロイドを使用するため、日本で使われるような2~4mg
程度では効果は分からないかもしれません

最後に、死前喘鳴に対して抗コリン薬(アトロピン・
スコポラミン)を舌下・全身投与することは今回の
ガイドラインから効果がプラセボと変わらないという
研究をもとに「非推奨」となっています
。この話題は
次回改めてお話をさせて頂きます。

結論として、ただでさえ使う薬の選択が少なかった終末期
の呼吸困難に関して、従来使われて来たいくつかの薬剤も
エビデンスが不十分として非推奨に変わっています
。ただ、
これに変わる薬剤がない以上、それでも使わざるを得ない
とは思います。また、長く苦しい想いをさせないよう、
鎮静を考慮すべき場合があるのではないでしょうか。