Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

意思決定支援

85歳、フルコース

患者さんの状態が急変し、心肺停止あるいはそれに近い 状態(バイタルサインが悪化していく状況)にある時、 昇圧剤を使用したり心肺蘇生を含めあらゆる医療行為を 行い回復を目指す時、医療者はよく「フルコース」と いう言い方をします。これに対して蘇生…

何が「本人の意思」なのか

終末期の患者さんに、「どのような治療を受けたいか」、 あるいは「受けたくないか」を決めて頂くことは、しば しば難しくなります。意識がはっきりしていない事も 多くありますし、記憶や判断力が落ちた状態での「意思」 を、御本人の本当の意思として捉え…

『だから、もう眠らせてほしい』

だから、もう眠らせてほしい 安楽死と緩和ケアを巡る、私たちの物語作者:智弘, 西発売日: 2020/07/14メディア: 単行本緩和ケア医、西智弘先生が「安楽死を受けたい」 と訴える二人の患者さんを通し、安楽死について 考えていく内容。 途中、多発性骨髄腫を発…

「在宅ひとり死」に必要なこと

Yahooに、上野千鶴子さんの「在宅ひとり死」についての 記事がありました。news.yahoo.co.jpよく、おひとり様が在宅死を迎えることが出来るか、と いうことが話題になります。結論を言えば可能ですが いくつか条件があります。まず、ご本人の強い決意と 意思…

危険を事前に伝える難しさ

眠剤に関係すると思われる転倒が、時々起こります。 そもそもあまり処方したい薬ではないし、 最大限注意はしますが、それでも起こります。 特に、がんの終末期では皆さんぎりぎりの状態で トイレまで歩かれるので、転倒の確率は飛躍的に 上がってしまいます…

救急搬送は訪問診療の「失敗」か

今日は、こんなタイトルにしてみましたが、訪問診療医の 多くは特に看取りを意識して訪問している患者さんの場合、 患者さんが救急搬送になると自分の訪問が「失敗してしまった」 と感じる医師が、あるいは看護師が、割合に多くいるようです。 講演や勉強会…

言えない医者、聞けない患者

Aさんは、あるかなり進行したがんの患者さんです。 一時期抗癌剤が効いて安定した時間を過ごせていましたが 治療に効果がなくなり、そんな中がんが原因と考えられる 腸閉塞で入院となりました。運よくイレウス管が抜けて 退院出来ましたが、腹水は溜まり食…

ACPのポスターに思うこと

厚生省の発表した、ACP普及のためのポスターに批判が 集まり、自治体へのポスターの発想やPR動画の公開を 中止にしたという記事が出ていました。www.asahi.comこのポスターは厚生省が吉本興行へ作成を依頼していた ものらしく、対象は「ACPは他人事」と思っ…

平穏死は良いが誰にでもベストだと言えるだろうか

Dr.和こと長尾和宏先生が、また鎮静について書いておられました。blog.drnagao.com面識はないですが非常に熱心な良い先生だと思います。 文才もおありなので、在宅医療や平穏死について数多くの本 を書かれ、啓蒙活動にも力を入れておられます。 賛同出来る…

人生会議

『死ぬときぐらい好きにさせてよ』 これは樹木希林さんの『120の遺言』のサブタイトルです。樹木希林 120の遺言 ~死ぬときぐらい好きにさせてよ (上製本)作者: 樹木希林出版社/メーカー: 宝島社発売日: 2019/01/28メディア: 単行本この商品を含むブログを見…

ACPの診療報酬点数化

エムスリーに、ACP(アドバンスケアプランニング)の普及には 診療報酬化が必要だ、という提案が、全日本病院協会の総会で出た ようですが…正直「またか」という想いで私は大反対です。ACPについて、最近私はこんな記事を書きましたが、 kotaro-kanwa.hatebl…

「患者の自己決定」の難しさ

40代の女性が、人工透析を拒否した結果亡くなった、という 話が話題になっています。要点をまとめると、1.透析を止めると2週間くらいで亡くなるという話を聞いたが この時点では強い意思で拒否。同意書にもサインしている。 2.症状が苦しくなり、夫には透析…

ACPは延命中止を決めることですか?

本日の、新城拓也先生のツイートの紹介から。 最近あちこちで見かけるアドバンスケアプラニングの弊害は 本当にひどくて、患者の治療を受ける権利を著しく奪って いると思う。延命治療をする・しないも 医療者の側の業務的な連絡事項になっている。 私も普段…

医師の信念と患者の気持ち

とても興味深い対談が連載中です。www.kango-roo.com少し前に御紹介した幡野広志さん(2017年に多発性骨髄腫を 発症。余命宣告を受けているフリーカメラマン)と、市立 井田病院の西先生の対談です。いきなり最初から幡野さんの するどい直球で始まります。 …

胃瘻を中止にすることは出来ない!?

ある胃瘻の患者さんの御家族から、 「胃瘻にしていると老衰は出来ないのですか?」 と尋ねられたことがあります。老衰とはこの場合、 老衰死=平穏死のことを指しているのでしょう。老衰死の場合、人は物を摂らなくなりますが、 多くの死をみているとこれは…

老いと「受容」

私は患者さんが病気や死を受け入れるか、それ自体はどちら でも良いと考えています。投げやりな意味ではなく、それは 患者さんの価値観や生き方によるからです。過去のエントリーでも、 kotaro-kanwa.hateblo.jpkotaro-kanwa.hateblo.jpこの辺りで書かせて頂…

命の重み

私がレジデントの頃の話です。 病院かかりつけの患者さんが窒息で救急救命センターに 搬送されました。一命を取りとめましたが食事も会話も 出来ず、胃瘻に。また、もともと透析をするかどうか ギリギリの方でしたが、救命後は透析も必要となりました。 経過…

入院時に受ける急変の説明

病院に入院すると、家族が病状の説明を受けた時に、 「急変時の方針」を決めるよう求められる場合があります。 もちろん、この場で答えたことが今後も変更不可能ということ ではありません。後に変更も可能です。しかし後述のように いざ起こってしまってか…

自分で決めない文化

日本において本人よりも家族の意思が優先される場面が多々あるのは 確かに課題ではある。しかしそれを本人自身が望んでいる場合という のもまたあり、それが日本人としての特性だろう。 ACPを進めて本人の意思を最優先させる仕組みを整えていくことは重要 だ…

「死の受容」に対する疑問(2)

昨日の続きになります。kotaro-kanwa.hateblo.jp昨日のブログでは、西先生のブログ記事、「患者さんは死を 受け入れられるのかどうか」を紹介させて頂きました。 そして我が国のホスピスがキュブラー・ロスの影響を強く 受け、まるで「死の受容」に至ること…

「死の受容」に対する疑問(1)

3月28日、川崎市立井田病院の西先生がこんなブログを書いて おられました。https://www.buzzfeed.com/jp/tomohironishi/shihaukeirerarerunoka?utm_term=.yxG1bjPa#.end58z4Zwww.buzzfeed.comTwitterでも散々絶賛したのですが、私がこの仕事をしながら 長年…

『痛い在宅医』

2017年12月に出た、長尾和宏先生の著書。 在宅療養を、特に看取りを考えている御家族に必須の本 ではないかと思います。痛い在宅医作者: 長尾和宏出版社/メーカー: ブックマン社発売日: 2017/12/21メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログを見…

スパゲティ症候群とクオリティ・オブ・デス

「ピンピンコロリが良い」「眠るように死にたい」と多くの 方がおっしゃいます。しかし「ピンピンコロリ」で死を迎える ことが出来る人は5%に過ぎない、と在宅医の長尾 和宏先生は おっしゃっています。「スパゲティ症候群」という言葉を御存知でしょうか。…

「どちらが、本人がより幸福か」という軸

胃瘻造設に当たり、多くの患者さんは自分の意思を表現 出来る状態にないため、家族が決断を迫られることが しばしばあります。「延命」か「実質的な患者の死」を 限られた時間の中で決断しなければならない苦悩は 計り知れないものがあります。また、少し異…

終末期の輸液

本日は『いまいホームケアクリニック』さんのこちらの記事 から。imai-hcc.com書いてある内容は、私個人は全く賛成です。 ただ、少し自分の意見を加え、書かせて頂こうと思います。少しずつ衰弱された患者さんが、口から水分を摂れなく なった場合、多く余命…

予め、自分で決めることの重要性

ここのところブログで続けて「医師任せにしてはいけない」 ことについてお話して来ました。診療をしていると、 「素人なので分かりません。先生にお任せします」 という方が必ずいらっしゃいます。御高齢になるに従い 比率は増えると思います。 一見、主治医…

「すがる」こととその対象が生む悲劇

今日は前回の続きです。元になる記事は、ex.yahoo.co.jp科学的根拠に乏しい代替療法にすがった結果、たくさんの 金銭を失ってしまう患者さんがいます。場合によっては、 完治の可能性すらある方でも、残念ながらそのチャンスを 失ってしまうこともあります。…

「緩和ケアも治療です」

今日はこの記事に沿ってお話させて頂こうと思います。ex.yahoo.co.jpこの、背を向けた医師と右側から伸びるたくさんの手、 とても印象的な、象徴的なイラストですね。進行再発がんで化学療法を行っても、殆どの場合がんを完全に 治癒させることは出来ません…

『安楽死で死なせて下さい』

あまり気持ちの余裕がなく、少し更新が滞っておりました。 今日は『おしん』『渡る世間は鬼ばかり』等で有名な 橋田 壽賀子さんが書いた本の紹介をさせて頂きます。安楽死で死なせて下さい (文春新書)作者: 橋田壽賀子出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2017…

平穏死ー患者は本当に苦しんでいないのか

長尾和宏先生のブログにこんな記事がありました。blog.drnagao.com長尾先生は在宅医療の一線で活躍されている先生です。 たくさんの本を書かれ、あちこちで講演を行うなど 在宅医療普及に向けた活動も精力的に行っておられます。 胃瘻の本などはとても良く書…