Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

がん治療中止における家族間の葛藤

今日はこの記事について考えてみました。

kenko100.jp

まず、本文の主旨とは違いますが、「緩和ケアを受ける」
という言葉が、(がん治療を中止し、)緩和ケア病棟に
入院する、という意味合いで使われています。
このブログでも何度もお話している通り

緩和ケア=緩和ケア病棟

ではないです。混同した使い方は「早期からの緩和ケア」
の理解や普及の妨げにもなり兼ねません
ので、そろそろ
止めて頂きたいと思います。

さて、こちらの記事ですが、

このほど、筑波大学と東北大学などの研究グループが、
緩和ケア病棟で最期を迎えた進行がん患者の家族が経験
した家族内の葛藤の実態について調査をしたところ、
家族の約40%が何らかの葛藤を経験していたことが
分かったという。詳細は、7月25日発行の医学誌
「Psycho-Oncology」(電子版)に掲載されている。

という内容です。葛藤はこの場合対立・争いの意味合いで
で使われていると思います。多くは「治療をする(続ける)
か、やめるか」というものだと思いますが、何処の病院に
通院するか、何処で療養するか、誰が看るか等も含まれる
と思います。我が国の場合特に、御本人と家族、という
対立よりも、家族同士、親子や兄弟間であることが
とても目立ちます。

理解は出来ます。同じ家族(患者さん)のことを想って
いても考え方は人それぞれ、立場も人それぞれです。特に
直接患者さんを看ている家族と、離れている、遠くにいる
家族では考え方が随分違うと思います。大切な家族で
あればあるほど、感情的になるのも無理はありませんし、
場合によっては合理的な判断が出来なくなってしまう
事もあるでしょう。

もともと家族間で不仲や争いがあった場合はそう簡単には
いきませんが、いくつか解消に役立ちそうなヒントはある
と思います。まず、先程「我が国では」家族同士の対立が
多いという書き方をしましたが、御本人が自分の意思を
あまり持たず、家族に判断を委ねてしまうことが、特に
高齢の患者さんの場合多いように思います。気力や判断力
が落ちてしまう事も多く無理はないですが、元気なうち
から家族に考えを伝えておく、考えをノートにまとめておく
ことは、葛藤を減らすためには一番効果的であると思います。

また、文中にもあるようにとにかく対話がとても大切です。
遠方の家族は、「忙しい」と対話を避けるなら、意見を
言うべきではないと私は思います。病状についての医師の
説明や、直接看ている家族の負担や苦悩、御本人の希望
などが良く分からないままで、正しい考えが持てるので
しょうか
。忙しいなら、判断を任せるのが常識でしょう。
まずは「どうなっているんだ!」と怒るのではなく、冷静に
家族や医療者の話を聞いて頂ければと思います。「今」だけ
見て分からないことでも、決断に至った理由、悩みながら答え
を求めて来た家族や医療者の『これまで』が必ずあるのです

まずは「今まで患者さんを支えてくれてありがとう」から
入って疑問点を穏やかに、ひとつひとつ確認し、ご意見は
その後にして頂ければと思うのです。

家族の多くが、それぞれ本当は支えや助けが必要です。
自分も相手も、傷付き苦しんでいる存在であるという
認識は、お互いを理解するために必要なのではない
でしょうか。

糖質制限で糖尿病が増加?

私自身、5月6日から糖質制限を行っています。緩めに行って
いますが本日で最低体重を更新し、8.9kg、体重が減少して
います。過去のダイエットと比べ、楽で効果が高く、体調
が悪くなったり体力が落ちたりしないので自分には合って
いると思っています。


さて、いかにも胡散臭いタイトルの記事ですが掲載は9月11日の
『NEWSポストセブン』です。

news.nifty.com

何かが流行るとアンチが必ず出てきますし、言っては何ですが
大衆娯楽系の雑誌は売れそうなものは何でも記事にします。
また正直、長年カロリー制限を指導して来た医師には糖質制限が
受け入れられないのはなんとなく分かります。
それはさておき、どの程度の内容なのか私も目を通してみました。
しかし、これはひどいですね。

まず、統計を含めた反論は、江部先生がブログで丁寧に書いて
おられます。きとんと勉強したい方はお読み頂ければお分かり
かと思います。こちらの、2017年9月12~13日をご覧下さい。

koujiebe.blog95.fc2.com

江部先生のように丁寧に議論しなくても、糖質をふんだんに
摂った時と、制限食を摂った時で血糖を調べ、比べてみれば
すぐ分かります。制限食では血糖そのものがあまり上がり
ませんので、一目瞭然です。血糖が上がる食事と上がらない
食事では、HbA1cはどちらが高くなるでしょうか。考えるまで
もないですよね。

もっとひどいのは、糖質制限で『糖新生増加』や『膵臓β細胞の
機能低下』が起こるのではないか、という部分。ここも本当に
浜松医科大学名誉教授が言ったことであれば、血迷っている
言うか…浜松医大は大丈夫でしょうか。

『糖新生』は江部先生がおっしゃる通り常時起こっている現象
ですし、糖尿病治療でもカロリー制限でも増加しますから、
糖新生で糖質制限を批判するならこれは完全にブーメランです。
むしろ、しっかり蛋白質や脂質を摂ればエネルギー不足には
なりませんから、糖新生は多くはならないはずです。

また、インスリンの分泌量が減ると膵臓のβ細胞の機能低下
が起こるという説明は、これまでインスリン分泌が増えると
β細胞が疲弊し、やがてβ細胞の機能低下に至るという、
これまでのインスリン抵抗性についての説明の逆です

私自身、糖質制限にはまだまだ慎重であるべきだとは思って
います。特に糖を全く摂らない、肉は無制限にOK等の極端な
糖質制限は、個人的にはどうかと思う部分もあります。

しかし、今回のなんとかポストの記事のような屁理屈や『統計遊び』
は害でしかありません。それより糖質制限の効果に多くの糖尿病の
専門医が効果に驚き、急速に広まっているのにはそれなりの理由が
あると考えるべきではないでしょうか。

私から糖質制限に興味を持っている皆様に申し上げたいことは、
自己流で闇雲に始めることは勧められません。
特に江部先生の言うところの『スーパー糖質制限』などは、
いきなりやると具合が悪くなる方もおられます。私は数ある
糖質制限の本の中では、書き方が慎重で偏りがない、山田悟
先生の著書が一番お勧めです。

糖質制限食のススメ

糖質制限食のススメ

また、ゆうき先生原作のこの漫画、かなり俗っぽいですが、
つっこんだ知識もあり、気軽に糖質制限を知るには良いと
思います。

マンガで分かる肉体改造 糖質制限編 (ヤングキングコミック)

マンガで分かる肉体改造 糖質制限編 (ヤングキングコミック)

「自宅で最期」が意味するもの

昨日に引き続き、新城先生のブログからお話をさせて頂きます。

drpolan.cocolog-nifty.com

また、自宅で過ごして私のような在宅医が治療やケアを行って
いても、本当に家で亡くなりたいと本心から思っている人は
全体の3割です。ということは、残りの7割の患者は入院できる
病院を私が探さなくてはいけない
ということです。だから
在宅で何が一番大変かというと、家で最期を看取ること
ではなく、患者や家族に入院したいと言われたときに
入院できる病院を探すこと
です。

※赤字は私が勝手につけました。

本当にその通り!と思います。病院でどのような聞き方をして
いるか分かりませんが、「自宅看取り希望です」と紹介される
ことがあります。希望は本人なのか、家族なのか。そしていわゆる
「急変」の場合も、搬送せずに自宅で亡くなることを希望されて
いるのか。こちらで確認してみるとニュアンスが異なる場合も
少なくありません
。新城先生が感じておられる葛藤を、私も以前
のエントリーで書かせて頂いたことがあります。とても大切な
内容だと思いますので、興味がある方は是非お読み下さい。

kotaro-kanwa.hateblo.jp

淀キリの『緩和ケアマニュアル』には、『急変』を「予期
せぬ突然の病態の変化」と定義したところ、15.4%の患者
さんに急変が起こる
とあります。部位別では頭頚部がんが
トップで、28.3%です。脳浮腫や痙攣でしょうか。全体と
しては出血、呼吸不全がそれぞれ全体の30%を占めます
(ただ、逆に言えば急変のない多くの方は自宅看取りは
困難なことではないとも言えます)。

このような急変が起こった場合、いくらそれまで自宅療養
を希望されていたとしても考えが変わることはいくらでも
あります。このような場合、以前かかっていた病院に入院
をお願い出来れば良いですが、断られてしまうと患者さん
家族も私もかなり大変です。

上記の過去記事にも書きましたが、確かに搬送すれば患者
さんの苦痛がとれるか、楽になるのかは疑問もあります

夜間休日では病院も手薄ですし、当番医が緩和に長けて
いるとは限りません。病院は「亡くならないようにする
医療」が優先されるのが常ですし、延命で苦痛を感じる
時間が長くなる可能性もあります

しかしここで私が「パターナリズム」を発揮し、搬送する
よりも自宅で亡くなる方が良いのだ、と看取りを誘導する
ことはどうなのでしょうか。大切なのは私達の信念を
通すことではなく、究極の場面で患者さんや家族の強い
想いを優先することではないかと思うのです
(もちろん、
事前にお話をしていますし、自宅を選ばれる方も多い
ことは付け加えておきます)。