Not doing but being

主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

認知症患者さんの易怒について

昨日は認知症の患者さんの暴言・暴力の話をしました。
認知症の患者さんと関わったことがある方であれば、
「怒りっぽい方が多いなぁ」と感じられた事がある
かもしれません。約半数の認知症の患者さんにこの易怒
がみられる
と言いますが、私はこの「易怒」こそが介護
を困難にする最も大きな原因のひとつではないかと思って
います。実際、私がこれまでに関わった方々のうち、
患者さんの苛立ち、暴言、暴力に悩む御家族や施設の
職員はとても多かったです。
特に、『前側頭葉型認知症』の一部の患者さんの易怒は
激しく、多くの介護者を困惑させています。
患者さんが穏やかで感謝を口にする方であれば、
介護者は家族にしても施設職員にしてもかなりのところ
まで頑張れるのではないかと思うこともあります。

何故認知症の患者さんはすぐ怒るのか。我慢する能力の低下
など、原因は複数あるのかもしれません。ただ、重要なことは
易怒の根本には、認知症の患者さんの大きな不安・苛立ち
があるということ。短期記憶がないという事は今おかれて
いる状況が理解出来ず見知らぬ場所に放り出された感覚が
ある
と言われています。易怒を改善しようと思ったら、
まず何よりも優先して、患者さんを安心させることを意識
するべきです。実際にはとても難しいのですが、「怒る」
のは禁忌に近く、かならず半沢直樹のように倍返しが
待っていると思うべきです。徹底的に怒らなくなると
殆どのBPSDはなくなる
、とおっしゃる先生もおられます。
つい言ってしまう、「また忘れたの?」等の言葉も、屈辱
や不安といったマイナスの感情が生じます。良く言われる
ように、認知症の患者さんは具体的なエピソードを忘れても、
介護者に対し、マイナスの感情を結び付け、「嫌な人だ」
という感覚だけ残るようです
。これは、生物として「良い人」
「悪い人」を見分け、安全に生き延びるために備わった
本能なのかもしれません(もちろん介護者は悪い人では
ないですが)。

次に、何か身体面の問題や薬による医原性の易怒がないか
を考えます。多くの場合、身体を検査することには限界
があるかもしれませんが、辛さが苛立ちに繋がることは
多分にあると思います。例えば、痛み、便秘や痒みを治療
したら苛立ちが減ったという経験はあります。イライラ
させてしまう薬の代表はアリセプトでしょうか。 これは
言ってみれば脳を刺激する薬です。アリセプトの苛立ちは
投与初期(2週間以内)と言われますが、怒りっぽい患者
さんでアリセプトをやめると穏やかになるという事は決して
めずらしい事ではありません。むしろ患者さんの状態は少し
ずつ変化していく訳ですから、投与初期に問題がなくても
次第にアリセプトが合わなくなる事もあると考えるのが
自然ではないでしょうか。

介護方法にもコツがあり、患者さんのためを思った行動でも
結果的に怖がらせてしまい、拒否や抵抗を生むことも多い
と思います。もちろん施設の介護職員はプロなのでここに
書いたような事は常識だと思いますが、ここまで考える
ことが前提で、それでも患者さんの易怒で介護が大変に
なっている場合は、『薬物で易怒を改善出来ないか』
考えてみてはどうかと思います。具体的な薬剤について
は次回お話します。

98%が「暴言や暴力受けている」

昨日の記事の中に、介護者である家族(親族・同居人)
が要介護者である認知症の方、高齢者を虐待してしまう
ケースが年間にどれだけあったかをお書きしました。
読んで下さった方、覚えておられますか?

年間、15000件です(平成26年度)

www.mhlw.go.jp


相談、通報は25000件、「つい手をあげてしまった」数は
計り知れないと思います。

上記の資料によると、介護施設で施設の職員による虐待数
も報告されています。認定されたのは300件です。これが
平成27年度には408件になっています。日々ニュースに
なるのは施設の虐待ですが、家族から比べれば件数は
とても少ないです(当然と言えば当然ですが)。

少し前までは、「なんてひどい施設だ」「そんな奴が介護
をしているなんて」という解釈が多かったようです。もち
ろん、世の中に悪い人間がたくさんいる事を考えれば、
医療者にも介護の職員にもとんでもない人もいると思います。
ただ、最近は介護職員の置かれている過酷な状況に目を
向け、この状況が変わらない限り虐待は減らない、という
ことが、ようやく言われ始めています。

本日のタイトル、98%が「暴言や暴力受けている」という
のは、実は介護施設の職員のアンケートです
。もちろん、
暴言・暴力は入居者である認知症の患者さん・高齢者から
のものです。その記事はこちらです。これを見た介護職員
の方々の反応は、殴られる、あざが出来る、罵られるのは
「日常」だそうです。もちろん上司に相談しても殆ど
解決しない、というアンケート結果もあります。

www.j-cast.com

「認知症の患者さんは、分からなくなっているのだから
仕方ないだろう」と言われれば、それはその通りです。
私も仕事上、その辺りは良く分かっているつもりです。
しかし、「仕方ない」で済ましているから介護者の
ストレスによる虐待も減らないし、深刻なほどに離職者
が多いのではないでしょうか。新人ばかりでは介護の
質も上がりませんし、職員が集まらず介護事業の継続
すら厳しい状況になっている施設もあるのです。
周辺症状が強いと、「この施設では看れません」という
方が、今後は増えていくのではないでしょうか。

また、これは介護施設職員のアンケートの結果ですが、
自宅で介護している家族も、近い状況なのではない
でしょうか。「仕方ない」で済みますか?
このまま国の方針通り「在宅へ」と言われても、
本当に出来るのだろうかと思ってしまいます。

いずれまた日を改めてお話をしますが(施設の方々の
ケアの技術を上げる努力は精一杯して頂いている前提
で)私は認知症の患者さんのBPSDをコントロールする
目的で薬を使うことはもっと容認されるべきだと思っています。
具体的には今のところ睡眠薬や抗精神病薬が中心に
なります。当然副作用はありますが、(施設や実際に
介護をしている家族が使いたくないという場合は別として)、
介護者の「なお一層の努力」を求めるのははっきり
言って何の役にも立たないアドバイスです

職員の方々が安心して介護出来る状況が経験豊かな
介護者を育て、より良い介護に繋がると私は考えています

介護殺人

昨日また、介護殺人の記事がYOMIURI ONLINEに出ていました。
sp.yomiuri.co.jp

4月2日、朝日新聞の一面で『入院病床 1割減らす計画』
という見出しの記事が掲載されたのは記憶に新しいと思います。
また、横には「在宅医療促す」とあります。また同時に
「介護保険自己負担額3割」の議論も始まっており、介護
をめぐる、介護者の身体的・経済的負担は増えるばかりです

介護者が、その苦しみや将来への悲観から被介護者である高齢者、
多くは認知症の患者さんを殺害してしまう痛ましい事件が、
年間20件余り起きています。主に不眠や排泄をめぐるトラブル、
認知症である患者さんからの暴言・暴力、介護のために職を失い
金銭面での苦悩、生活保護や介護施設の利用困難等の理由が背景
にあります。2016年にはNHKスペシャルで「介護殺人 当事者
たちの告白」という番組がありました。各々のケースを見ていく
と、壮絶としか言いようのない介護の現状があります。

www.nhk.or.jp


殺人とまで至らなくても、介護者(家族)の高齢者虐待は
我が国で年間15000件の報告があります。これらの多くに
介護者の「うつ状態」が関係していると言われますが、
2005年の厚生省の調査では介護者の4人に
一人がうつ状態
、という結果もあり、また、介護経験者の4人
に一人が患者である家族を「手にかけようと思ったことがある」
と答えている調査もありました。介護者自身の
自殺も介護殺人よりもずっと多く、年間300件程度が報告
されていると言います

何が出来るでしょうか。制度の充実はもちろんですが、きちんと
案内しないと制度がややこしくて利用が出来ない場合もあります
ごく一部の不正受給者のために生活保護が受けにくくなっている
のも問題
です。なにより、まずは多くの国民が介護の難しさを
理解し、「認知症の患者さんや高齢者は家族で看る」という
思い込みをなくす
事も大切です。このような無理解も間違いなく
介護者である家族を追い詰めています。また、2007年に家族が
目を離した隙に認知症の患者さんが踏切に立ち入り電車にはね
られた事件では、JR側が家族に損害賠償を求め訴訟まで起こして
いました(最高裁で損害賠償責任は否定)。このような報道が
ある度に、介護を続けるご家族を追い込むことにはならない
でしょうか
。法律の助けもとても大切なことです。

高齢者の徘徊を防ぐために鍵をかける、暴れて落ちない
ように抑制着を着せることも拘束、夜眠って頂くため
に睡眠薬を飲んでもらっても「薬物による拘束」と
何でもかんでも虐待にしてしまう「良識ある高齢者
の味方」が多いですが、まず介護者を救わなければ
認知症・高齢者の患者さんを救うなど「絵に描いた餅」、
全くの夢物語です
。私はこの事を、これからも何度も
ブログで主張して頂きたいと思っています。

介護殺人:追いつめられた家族の告白

介護殺人:追いつめられた家族の告白

介護殺人の予防―介護者支援の視点から

介護殺人の予防―介護者支援の視点から