Not doing but being

東京都大田区で開業している訪問診療医のブログ。主に緩和ケア、認知症、訪問診療、介護、看取り分野の話題です

サンドスタチンの在宅での使い方

医療者ではない、一般の方には面白くない話が続いてしまい、
申し訳ありません。本日は末期がん患者さんの消化管閉塞で
症状緩和に用いられる「サンドスタチン」を在宅で使用する
ためのコツをお話したいと思います。

まず、サンドスタチンは皮下注用と書かれていますが「持続
皮下注射」という方法で使われるのが一般的です。この方法で
使うには、ポンプが必要ですが、消化管閉塞の患者さんの多く
は既に「高カロリー輸液」を受けていることが多いです。
稀に抹消輸液や皮下輸液があるかもしれませんが…。

1.ポンプが増えて患者さんはわずらわしい
2.2台目のポンプはクリニックの「持ち出し」になる
3.詰め替えのための頻回の訪問が必要

という大きなデメリットが生じることになります。
ですのでズバリ!高カロリー輸液中に混ぜてしまうのが
お勧めでしょう。サンドスタチンは処方箋で出せるので
クリニックでわざわざ買わなくて良いです。薬局のクリーン
ルームで調剤し患者さんの家の冷蔵庫で保管します。
サンドスタチンを高カロリー輸液中に混ぜると配合変化
(濃度の低下)があると言われて来ましたが

エルネオパ1号では72時間後に10%程度低下
フルカリック2号では48時間後まで含有量は殆ど低下せず

という報告があります。7日の作り置きはともかく、数日
ごとに用意すれば致命的な濃度の低下はなさそうです。

サンドスタチンとの混合をしてはいけない薬剤を挙げておきます。
プリンペラン、リンデロン、ノバミン、水溶性プレドニン。

一方、モルヒネ・ブスコパン、デカドロン、ドルミカム、
ハイスコ、セレネース等は混注可能とされています。

どうしても皮下注にこだわるなら、間欠的に皮下注射する方法
があります。しかし、半減期を考慮すると1mlずつ最低1日3回は
必要だと思われ、在宅では厳しいです。患者さんも痛いと思います。
ただ、後述のように皮下にサーフロー等を留置しそこから薬剤を
間欠的に注入するという手もあります。

持続皮下注射ならシリンジポンプ等を借りるのがベスト。
サンドスタチン3A(3ml)を日数分シリンジに入れ、
0.10ml/時で開始。色々な意味で3~4日毎に交換が必要です。

あるいは『リニアフューザー』等のディスポーザブルポンプ
を使っても良いです。しかし、 ディスポのポンプはモルヒネ
や抗がん剤を投与する時しか使えないそうなので、ちょっぴり
(1日10mgくらい)モルヒネを混ぜて使うと良いです。
ディスポタイプは100mlくらい入るので、サンドスタチンと
モルヒネに生食等を混ぜ、計24mlの倍数に薄めて使用すると
便利です
。ちなみに薬局で薬剤を詰めたかたちで処方出来ます
ので、モルヒネを使う場合もアンプルをクリニックに保管する
必要はありません。

ちなみに在宅ではトンボ針は病院しっかり固定していない
と抜けた時危ないです。ですので私はサーフローを使用します。

ちなみに海外ではLAR製剤を悪性消化管閉塞に用いることも
あるそうですがわが国では保険適応と薬価の問題で使われる
ことはありません。そういえば皮下注用のジェネリックが
出ました。半額くらいかな、だいぶ安いです。保険適応も
大丈夫です。

サンドスタチンの今(2)

昨日の続きです。昨日は、がん終末期に起こる腸閉塞
に昔から使われてきたサンドスタチンの紹介。
しかし新たなエビデンスは効果に疑問を投げ掛ける
結果となりました…という内容でした。

この内容について、『緩和ケア2015年9月号』で特集
されています。文献や、権威の先生方の意見も載って
おり、結構ハイレベルな内容になっています。
在庫が限られているので、サンドスタチンをめぐる
最近の議論に興味がある方は是非購入をお勧めします。

緩和ケア2015年9月号 (悪性消化管閉塞にどう対応する? どうケアする?)

緩和ケア2015年9月号 (悪性消化管閉塞にどう対応する? どうケアする?)


私も特別な意見や提案を持っている訳ではありませんが、
やはりサンドスタチンの出番が少なくなった感は否めません
必要なことはサンドスタチンの長所と短所を知り、
まずは同様の効果を持つ別の薬剤の使用を検討すること
だと思います。しかし他の薬にはない薬理学的な特徴を
持つ薬ですから、必要な場合には躊躇なく使用しなければ
いけないと考えます。

使用する医師が最低限知らなければいけない知識をまとめます。

まず、サンドスタチンですが経験上効果が出やすいのは
輸液を500~1000mlに絞ること。上腹消化管の閉塞では
効果がない事が多いですが、逆に大腸の閉塞では時に
著効がみられます
。効果は24時間程度で出ることが多く、
3日程度使用して効いていなければ中止を考慮すべきです。

代替出来る安い薬にはハイスコ(保険適応が微妙)と
ブスコパンがあります。また昨日ご紹介した聖隷三方原
のサイトにあるように、消化管分泌を抑制するH2ブロッカー
とステロイドで同様の効果が期待出来る場合があること。
これらはでサンドスタチンと併用でも使われます。
オピオイドも腹部疝痛にしばしば推奨されます。よく
サンドスタチンと併用されます。

またサンドスタチンの問題として一度使用し多少でも
効果があると、なかなか中止に出来ないこと。これは
初めには効果があったが病状が悪化して無効になる事
もめずらしくないからです。中止の基準がなく、一時的
にでも効いた記憶があると患者さんが継続を希望される
ので悩ましいところです。少なくとも一度中止して、
効果に差がなければ中止が望ましい
のは確かです。
ちなみに改善せず経鼻胃管を挿入した場合もサンド
スタチンは意味がないと思われ、中止すべきです。

私はホスピスでサンドスタチンが効いた多くの患者さん
の笑顔を覚えているので、患者さんを選べば大きな効果
が期待出来る薬である
、ということに疑いは持っていません。
ただ、本剤に限らず慣例に従い漫然と使用するのではなく
賢い使い方が求められている事もまた当然だと思います。

このような薬剤の効果や使い方は一般の方には面白くも
なんともないかもしれませんが、次回はサンドスタチン
シリーズの最後として、サンドスタチンの在宅での使用方法
をまとめてみたいと思います。

サンドスタチンの今(1)

消化管内のがんや、がん性腹膜炎の患者さんで
腸の中の内容物(腸液・便・ガス)が詰まって
しまう場合があります。これを腸閉塞と言います。
主な症状は嘔気/嘔吐、腹痛、腹部の膨満感です。
腸閉塞はがん以外でも起こりますが、がんが原因
で起こった腸閉塞は自然には治りません。
患者さんが元気で閉塞部位がひとつなら手術が
選択されますが、しばしば全身状態が悪くなった
患者さんに起こるため、手術が出来ません。
また閉塞部位も複数だったり再発もめずらしく
ありません。

サンドスタチン(オクレオチド)は、ホスピスでは
随分前から使われており、私も「確かに効果あるな」
と感じていました。鼻から腸液を吸い出すために管
を入れなくても、嘔吐が減り、時には飲水や軽食が
摂れる方もいらっしゃったのです。その後効果が
確かめられ、2004年に『進行・再発がんの緩和医療
における消化管閉塞に伴う消化器症状の改善』という
適応を取得
し、ホスピス以外でも使われるよう
になりました。2011年の緩和医療学会のガイドライン
でも、がんによる腸閉塞に対してサンドスタチンは
「使う、強い推奨」となっていました。

さて、長くなりましたが、ここからが本題です。
サンドスタチンは実は高価な薬です。1日量で10000円
くらいかかります。効果があれば使用すべきですが、
効いているのか効いていないのか分からない事が
めずらしくなく、サンドスタチンを使用する患者さん
には同時に輸液の減量、ステロイドの併用等が行われて
いることが多いので、「本当にサンドスタチンの効果?」
という声も多かったのです
。そこで追試験が行われました。

複数の追試験の結果は、緩和ケアを専門にされている
医療者の方には御承知の通り、「有意差なし」、
「サンドスタチンで腹部疝痛が増えた」等の否定的な
報告が相次いだのです。代表的なものは聖隷三方原の
サイトでも紹介されています(続きは次回)

www.seirei.or.jp